県の経済、社会を支える企業 ㈱協和の経営理念に学ぶ

阪口 直人

 社会に対する最大の貢献の一つ、それは雇用を作り出すことだ。仕事がないがゆえに人材の流出が続く和歌山県のような地方において、その意義はとりわけ大きい。印刷業界は、コンピューターの高性能化によって業界全体のパイが小さくなり、大半の企業が売り上げを減らしている。株式会社協和は、その中で、関連企業との共存を図りながら、一貫して売り上げを伸ばしてきた貴重な企業だ。

 昭和38年3月、21歳の時に協和名刺店を設立してから50年。一代で年商4億円を超える企業に育て上げた上田義徳社長はこの7月に一線を退き、会長に就任する。中学卒業後、段ボール製造会社に就職し、ガソリンスタンド勤務を経て独立。どのような理念と戦略で会社を経営してきたのか、話を伺った。

 「お客さんが喜んでくれることが一番!」「来てくれる社員が幸せでいてくれることが私の幸せ」「仕事が楽しくて楽しくて…」

 国会と地元事務所のマネジメントに苦労している自分自身の向学のため、企業経営の極意について勉強させていただこうと質問を繰り返した。しかし、何よりも仕事を通して人に喜んでもらうことを追求した結果が今の結果と、上田社長は語る。従業員約40人の協和は決して大企業ではない。しかし、上田社長にとっては、大企業を目指すよりも、幸せを作り出す企業であることがより大きな価値なのだ。

 子供のころから豚のえさになる残飯集めなど、アルバイトを続けた。中学卒業時、経済的な理由から高校に行く選択肢はなく、早く自立したい思いで懸命に働いた。仕事を続けるうちに次第に起業したい気持ちが募り、貯金を貯めて12万円で買った活字印刷機をもとに「協和名刺店」を設立。「協和」と名付けた意味は「3人の力を+(プラス)して、和やかに」だったという。

 上田社長は短期的な利益追求より、常に共存共栄を経営哲学としてきた。一方、勝ち抜くために業界の常識を破るチャレンジもしている。印刷業界では、版の作成、印刷、そして製本は分業制が常識だった。それぞれの業者がお互いの領域には踏み込まないことで利益を確保していたが、トータルのコストが高額になっていることを痛感していた上田社長は、全てを自社で請け負うことでコストダウンを図った。新しい領域に踏み込むには新たな設備投資が必要であり、経営上の大きなリスクを伴う。しかし、大きな負債を抱えながらも、結果的に経営の安定につなげた。その結果、設備投資できない零細企業の外注も請け負うことが可能になり、それらの企業が倒産せず、存続できるようなサポートも可能になった。「下請けを泣かせて儲けるのは嫌いやさかい、ウチが請け負うから会社つぶさんといてよ」こんな心意気で、家族経営の零細下請け企業とも共存を図る。

 一方、競争力強化のため、最高レベルの設備投資に向けた努力を惜しまない。ドイツで行われる展示会には毎回出席し、ハイデルベルグ社の最新機器を購入するなど、最高の品質を提供できる環境作りを行っている。仕上がりの早さ、色の美しさには定評がある。私自身、政治関係の広報物の印刷を頼む機会が多いが、以前使っていた業者に比べると、例えば政治活動に使用するポスターの色も格段に長持ちするようになったのを実感している。見えないところにも配慮を尽くす精神がこんなところにも表れている。

 7月6日にはロイヤルパインズホテルで設立50年と社長交代パーティーを行う。これまでお世話になった方々に感謝の気持ちを伝えるのが目的だ。「みんながいて、今の協和があるんやさかい、みんなが喜んでくれたら、それが私の幸せよぉ」上田社長の笑顔がさらに輝いた。

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