津波避難の「希望の丘」 タジマ工業が提案

ホープヒルズの模型を前に田中社長
ホープヒルズの模型を前に田中社長

 南海トラフ大地震などに備え、長年培った土木技術を生かし新しい発想で命を守る防災に挑む78歳の現役社長がいる。㈱タジマ工業(和歌山市船所)の田中和雄社長だ。田中社長は、津波から人々を守る円形の丘「ホープヒルズ」(㈱関三吉商店=本社新宮市と共同開発)の建設を自治体などに提案している。県内の有田市や美浜町、那智勝浦町の他、高知、徳島、三重の各県が関心を示しているという。

 同社は昭和53年に創業。土木事業における擁壁の補強工事などを手掛けている。これまで、鋼(はがね)の骨組みとネットなどを組み合わせた風水害に耐える道路の擁壁補強技術で、県内各所での施工の他、台湾や韓国など海外でも工事実績がある。
 今回の円形の丘は、同社の技術を生かしたもので、円筒形の盛り土に三重構造の擁壁補強を行う構造物。高さは、30㍍まで可能で、工期は半年ほど。避難人数は、頂上が直径30㍍で700人を想定している。頂上までは、階段の他、らせん状のスロープが設置されるため、車いすなどの避難にも対応。また、津波が押し寄せた際にも、円形が津波の威力を分散する効果を発揮するという。

 経済、公共性に利点 東日本大震災以降、注目が高まる津波タワー。鉄骨や鉄筋コンクリートでの建設や計画が進む中、景観や日常的な活用について課題が残る。ホープヒルズは、頂上部を公園にすることや緑化なども可能なため、普段から付近住民が利用できる施設になるという。
 さらには、建設費も鉄骨や鉄筋タワーの半額程度で建設できるため、経済的にも優れており、避難可能人数が700人で1億8550万円(一人当たり26万5000円)程度を想定している。建設工事で発生する残土などでも利用できるため、さまざまな方面での活用が期待される。

 和歌山に命の丘を 盛り土をつかった高台は、江戸時代に高潮から人々を守ったという先人の知恵を基に、静岡県袋井市に建設実績があり、全国の自治体関係者が視察に訪れるなど注目を浴びた。しかし、擁壁補強が実施されていないため、田中社長は「巨大津波が来た際には、砂が削られる恐れもあり、補強は必要だ」と警鐘を鳴らす。
 「土木技術を生かして災害から人の命を守りたい」という田中社長。まちなかに円形の丘が誕生する日も近いのかもしれない。

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