太地の古式捕鯨を知る 県立博物館企画展

 太地町に伝わる古式捕鯨や、それに関わる文化を紹介する企画展「鯨とり―太地の古式捕鯨」が10日、県立博物館(和歌山市吹上)で始まった。12月6日まで。捕鯨をめぐっては世界中でさまざまな議論がある中、同館の竹中康彦学芸課長は「過去に古式捕鯨という歴史があったことを再認識してもらいたい。捕鯨問題について考える上で、歴史的な推移を知るきっかけになれば」と話している。

 同館での古式捕鯨に関する展示は初めて。今展では、太地町立くじらの博物館や太地町歴史資料室の協力を得て、絵図やびょうぶなど約90点を紹介している。

 開催を前に、9日には関係者を招いた内覧会があり、式典で仁坂吉伸知事は「何が日本の国に根付いているのか、積極的に発信しなければならない。一方的な情報に振り回されず、真実を伝えたい」とあいさつ。同館の伊東史朗館長、太地町の宇佐川彰男教育長、県関係国会議員ら来賓と共に、テープカットで開幕した。その後、竹中学芸課長が展示物について解説した。

 江戸時代のはじめ、組織的に編成された鯨舟でクジラを追い、銛(もり)で捕らえる突取法の技術が導入されて以来、太地浦では本格的な古式捕鯨が行われるようになった。17世紀後半には網を使った網取法が考案され、多くのクジラを捕らえることができるようになったという。

 太地の鯨舟には4つの種類があり、さまざまな意匠で彩色されていたが、現物は伝わっておらず、わずかに残され、今回展示されている船材の一部は特に貴重という。

 鯨舟に絵が描かれているのは全国的にも珍しく、竹中学芸課長は「神聖な熊野の海で、クジラの殺生への滅罪の気持ちがあったのでは。浄土の世界を連想するような彩色を施し、クジラに対する弔いの心を示すためだった」との説を紹介した。

 また、江戸時代に描かれた絵巻には、小舟でクジラを捕らえる様子や、陸での解体風景、鯨舟を修繕する人の姿などが描かれ、当時の人々の暮らしがクジラとともにあったことを伝えている。

 展示を見た70代の女性は「世界中で関心が集まっているいま、いいタイミングの企画展。ただ単にクジラを捕って食べるというのでなく、伝統の文化だとよく分かりました」と話していた。

 学芸員によるミュージアム・トーク(展示解説)は15日、21日、29日、12月5日の午後1時半から行われる。問い合わせは同館(℡073・436・8670)。

 同展の関連企画として、特別講演会「太地町における古式捕鯨と世界情勢」(県主催、外務省など後援)が25日午後1時から、和歌山市の県民文化会館小ホールで開かれる。無料。先着300人。

 太地町歴史資料室学芸員の櫻井敬人氏が「六鯨を追う龍虎華形の鯨舟」を演題に、太地町が誇る捕鯨文化について紹介。『シー・シェパードの正体』(扶桑社新書)などの著書がある、産経新聞社外信部記者・佐々木正明氏が「捕鯨を巡る世界情勢」と題し、反捕鯨団体の実態について語る。

 問い合わせは県資源管理課(℡073・441・3010)。

展示されている鯨舟の模型

展示されている鯨舟の模型

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