ニーズとシーズの橋渡し 技術が社会を主導する仕組みを

鶴保 庸介

皆さん、ソサイアティ5・0って知ってますか? そうですね。すべてのデバイスがネットにつながることにより、リアルとバーチャルが融合する社会が来るのです。って役所から説明を受けてたのが、大臣就任当初の話。
わかるかよそんなの、といったら、のっけから長時間の講義を受ける羽目に。

毎日こんな言葉遊びをしているわけではないのですが、私にとってこの4カ月はまさにこれまで携わってきた国土交通分野、農林水産分野とは勝手の違うもので悪戦苦闘の連続でした。

いつになったらまともな政策論議ができるようになるのかと焦りすら覚えはじめていた頃、トルコへわが国の衛星の売り込みに行く機会があり、衛星の製作現場も知らずに売り込みとは、と反省する機会があり、とにかく言葉でなく現場をたくさん見ようということで暇があれば大臣室を出て、研究所や大学へ矢継ぎ早に視察を繰り返してきました。

たぶん歴代大臣のなかでこの短期間に見に行った数はトップクラスなのではないかと自負しています。

その中で特に印象深かったのは理化学研究所やJAXA、東大、京大、阪大など。

目から鱗の研究ばかりでした。
へえ、そうなのか、さすがですねぇ、と子供のように感激しきり。このまま順調にいけばガンの撲滅は10年以内には達成できると豪語する研究者がいるかと思えば、黒板らしき壁にびっしり書いてある意味不明の数式を前に天文学者、宇宙物理学者、数学者がすごい勢いで議論している。脳の微弱な電気信号をとらえておぼろげながらも思考を画像化する研究者がいるかと思えば(これってもうSFの世界!)、匂いを見分けることのできる素材を開発、匂いの出るテレビを作るんだとがんばっていらっしゃる人もいる。

…もう書ききれません。

でもこの「すげー」こそ大切なんだと。改めて思っています。

基礎研究の重要性を説かれたノーベル賞の大隅教授と対談させていただいた折も、研究者のモチベーションはただただ真理の探究であって、試行錯誤を繰り返すなかで社会に役立つかもしれない結果が出てくることもある、と。

「すげー」という気持ちがあればこそ、「知りたい」という気持ちのみが研究の原動力なんだと。

私、恐れ多くも研究者の前で何度、「これ、なんの役に立つんですか」と言ってしまったか。皆さんご無礼をお詫びいたします。

ただ、この「すげー」を社会が共有できるようにするために、科学技術は実社会に見えること、国富を生み出す成長エンジンでなくてはならないのも事実だろうと思います。

東大ではベンチャーを生み出す仕組みを大学挙げて作り上げ、いま日本で最大のベンチャー創造大学になっています。

また、研究者が集まってそれぞれの研究の良いところをもちより、社会のニーズに合わせる形で事業化する取り組みを行う研究者集団もできています。

私は大臣として、こうした社会をニーズ(社会が必要とするもの)とシーズ(素晴らしい研究、でもなんに役立つかわからない)を橋渡しする仕組みを、組織的な仕組みを作り上げたい。それに全力で取り組んでいるところです。

IoTによりネットが人の動きを、生活を予測し、先導していくことになるかもしれない社会、そんなときこそわれわれこそが社会の主体なんだと、どういう社会を作り上げるかの議論が大切なんだというのがソサイアティ5・0です。

この考えこそわが日本が、世界へ発信し、来るべき科学技術社会での主導的役割を果たしうるカギなのではないか。そう思うからこそ日本の技術が社会を主導する仕組みを作らねば、と日々奮闘です。

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