モノクロームの世界 坂田稔さん卒寿写真展

 全日本写真連盟総本部顧問、和歌山市石橋丁の写真家・坂田稔さん(90)は8日から13日まで、県民文化会館の大・中・小展示室で卒寿写真展「創造の黒と白」を開く。カラー全盛時代にある中、会場に並ぶ約240点全てが、白と黒で表現したモノクローム。坂田さんは「フィルム自体が忘れ去られようとしている時代。その魅力や素晴らしさをあらためて感じてもらえたら」と話している。

 坂田さんと写真との出合いは第二次世界大戦後、継母の姉夫婦がアメリカの抑留生活から帰国した際に、土産にもらったコンパクトカメラがきっかけだった。36歳で故・亀忠男さん主宰の葵フォトグループに入会。「写真は心の表現」を信念に、働く人に焦点を当てたヒューマンドキュメンタリーを追求。国際写真サロンや全日本写真展などで多数の入賞・入選を重ねてきた。

 80歳で「富嶽八十景」を発表し、3年前の米寿と写歴50年を記念した写真展では、紀州の海岸美をテーマに大自然が織り成す絶景を写し取り、大勢の来場者を魅了した。

 今展は写歴52年の集大成と位置付け、これまで国内外で撮影した人物やスナップを中心に展示。伝統産業や伝承を守る人々を写した中には、県内の鋳物工場で働く人や傘職人の姿もあり、時代を物語る。

 中国やネパール、インドやパキスタンなどの海外作品は、厳しい大自然や過酷な中で働く人々、風土や生活を温かいまなざしで描写。また、暗室テクニックを駆使したソラリゼーション作品や、父・金之助さんの第22回県展最優秀作「虚無僧」も並ぶ。

 光と影を捉える白黒写真に魅せられた坂田さんは「例えば、手のしわなどの質感や微妙なグラデーションは、フィルムでしか表現できません」と話す。

 常に笑顔で相手との対話を心掛け、カメラを向ける際は「撮らせてもらう」という感謝の念で接してきたという。「人の心に飛び込み、その人の生き方や内面性、それをいかにフィルムに定着させるか、撮る側の力量が試されます」。

 最近は太陽光線を通して撮影した花やクリスタルなど、精神世界を表現した作品づくりに情熱を傾け「一つひとつの作品から、なぜそれを撮ったのか、皆さんに感じ取っていただければうれしいですね」とにこやかに話している。

 午前9時半から午後5時(最終日は3時)まで。

「生ある限り撮り続けたい」と坂田さん

「生ある限り撮り続けたい」と坂田さん

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