飛躍への挑戦 フラメンコ舞踊家・知念さん

 和歌山市のフラメンコ舞踊家・知念響さん(36)が、日本フラメンコ協会主催の第26回新人公演「フラメンコ・ルネサンス21」(18~20日、東京・なかのZERO大ホール)の群舞の部に出場する。同公演はプロの舞踊家を目指す若手の登竜門として知られており、ソロ部門で最高賞の受賞歴がある知念さんにとって、さらなる飛躍に向けた挑戦となる。知念さんの舞踊人生の歩みを聞いた。

 平成23年、知念さんは同公演ソロ部門で最高賞に当たる奨励賞を県内出身者で初めて受賞。今回は石川慶子さん(名古屋市)、漆畑志乃ぶさん(京都市)とグループで群舞を踊る。2人は同公演で奨励賞を受賞した仲間で、チーム名はスペイン語で調和を意味する「アルモニア」。実力派の3人のフラメンコ舞踊家が挑む舞台に期待が高まっている。

 知念さんは、和歌山フラメンコ芸術の先駆者である和歌山フラメンコ協会会長・森久美子さんの次女。幼い頃からフラメンコに没頭する母親の姿を見て育った。「物心がついたらフラメンコが近くにありましたが、幼い私にはフラメンコの歌がうるさく、大嫌いだった」と当時の胸の内を明かす。

 転機を迎えたのは19歳でスペインのサンルーカルに語学留学した時。本場で改めて出合ったフラメンコの魅力にすっかり引き込まれた。

 帰国後、これまで教わることを避けてきた母に師事。世界に通用する踊りを目指し、スペイン人舞踊家のベニート・ガルシアにも習った。スペインへの渡航を繰り返し、精進の日々を過ごした。

 その後、結婚と出産を経て、数年後に現場復帰し、同時にコンクールへの出場を決めた。「ブランクが長かったので、あえて高い目標を立てました。周囲は無理だと言いましたが、精神的にも体力的にも極限まで自分を追い込まないと上へは上がれない」と自分を奮い立たせた。子育てと並行して毎日6時間以上の猛練習を続けた。

 平成21年、第5回CAFフラメンコ・コンクールではファイナリストに残ったが、うれしさの反面、現実的な問題にも悩まされた。

 「ファイナリストによる名古屋での稽古の合間、トイレに走っては、たまるお乳を搾乳しながら稽古を続けました。搾乳の痛みは半端ではありませんでしたが、授乳期に和歌山に置いてきた子どもを考えると罪悪感の方がはるかに胸を突き、泣きながら搾乳したことを覚えています」と振り返る。

 2年後、2回目の挑戦で新人公演の奨励賞を受賞。審査員からは「内なる叫びが聞こえるような踊り。静謐(せいひつ)さを併せ持ち、舞踊性が非常に高い」と高評価を受けた。県内出身者で初めて、関西でも当時は4、5人しかいなかった快挙の受賞を成し遂げた。

 母親の森さんも「彼女の踊りはキレが良く、お気に入りの日本の舞踊家の一人」と喜ぶ。

 昨年12月には、和歌山市卜半町に自身のスタジオを構えた。「甘えを一切取り除いた場所でフラメンコに向き合う時期にきました。前に進む限りはフラメンコに敬意を払い、育ててくれた母への感謝を忘れずに自立することが私の選択した道です。私について来てくださる方にはスペインで踊っても恥ずかしくない技術を伝えたい。そのためには自身が精進し続けないといけない」と決意を新たにしている。

 「私にとって一番大事なものは家族。家族の助けなしではとても乗り越えられませんでした。常に寄り添ってくれた夫と夫のご両親、私を健康に産んで女手一つで育ててくれた母には心から感謝しています」と笑顔を見せる知念さん。挑戦の歩みを続けるフラメンコ舞踊家の今後が注目される。
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 第5回知念響スタジオ発表会が9月24日午後2時半から、和歌山市小松原通の県民文化会館小ホールで開かれる。同スタジオ研究生の踊りの他、「アルモニア」が新人公演での群舞を披露する。前売り2000円、当日3000円。問い合わせは同スタジオ(℡073・488・4339)。

「内なる叫びが聞こえる」と評される知念さんの舞踊

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