競争と協力で観光振興 世界遺産サミットへの期待

鶴保 庸介

年に一回の恒例イベント、『世界遺産サミット』に出席するため、島根県大田市を訪れてまいりました。世界遺産サミットとは、世界遺産を持つ自治体の首長が一堂に会し、その保全や活用、抱える課題について意見交換を行い、また自治体間の連携を深めようという趣旨のもと、私が国土交通副大臣時代に立ち上げたもので、今回で4回目となります。ご記憶の方もいらっしゃるかもしれませんが、一昨年にはわれらが和歌山県で第2回の世界遺産サミットを開催させていただきました。いわゆる“言い出しっぺ”の私は、第1回の京都、第2回の和歌山、第3回の岩手、そして第4回の島根と、日程をやりくりしてこれまでのところすべてに参加しております。
今年の会場となった島根県大田市。石見銀山が世界遺産に登録されて今年で10年になりますが、これまで開催された3回とは少し事情が異なります。登録決定の翌年に80万人を超えた観光客はその後減少傾向が続き、2016年には30万人強と、3割程度まで落ち込んでいるのです。出雲空港から1時間以上かかり、また新幹線も通っておらず、鉄道の利便性も決して良いといえないなど、アクセス面での不利はやはりどうしても響いてきます。
ただ、この10年間、島根県や大田市始め関係者一同がただただ手をこまねいていたわけではありません。最近では熱意のある地元の皆さんの協力も得て、「ウォーキング」と「観光」を組み合わせた「ヘルスツーリズム」に取り組むなど、さまざまな創意工夫はされてこられましたが、残念ながら観光客数の減少傾向に歯止めをかけられていないのが現状です。
今回の世界遺産サミットでは初めて分科会が設置され、各自治体の担当者の間で、よりつっこんだ議論が交わされたと聞いております。私が世界遺産サミット立ち上げの必要性を痛感したのはまさにこの点にあるといえます。インバウンドの取り込みなど、現在、各都道府県はお互い熾烈(しれつ)な争いを繰り広げています。各都道府県は独自の予算を組み、それぞれの首長や関係者が海外に出て地元のプロモーションを行う。確かに、観光客誘致のために、一生懸命取り組むところとそうでないところに差が出ることを否定するものでは決してありません。ただ、私はもう少し広い視野で物事を見ることも必要だと考えています。競うべきところは競うが、協力できる部分は協力し、情報を共有し、連携していくことができれば、今より少ない予算で、今より大きな効果をもたらすことも決して不可能ではない、と考えています。
ただ、それはわれわれ国会議員や、観光庁が上から指示して成せるものではありません。各自治体の担当者間の人間関係、協力関係こそが物をいってくる。世界遺産サミットも今回で4回目となり、少しずつブラッシュアップされてきました。ただ単なる取り組み発表の場にするのではなく、今後、各自治体間での情報が共有され、より良い関係が築かれ、より効果的な観光振興の手立てが打てるようなきっかけの場に発展させたい、と考えています。例えば、当該観光地の不都合なところをボロカスに言い合うような会議をしてみるとか、観光学部など近隣のアカデミアの学生や先生に参加をしてもらい実践事業を行なってもらうとかです。そのためには県・市町村の職員の皆さまはもちろん、地元の皆さまのご協力が必要不可欠です。抜き出ている観光地だからこそ世界遺産として登録されるのであり政府も力を入れることができるのであります。選択と集中そしてその連携。観光の目指すべき姿が見えている以上、そのことに努力をしない手はありません。

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