受刑者に合唱指導 杉原さんに法務大臣感謝状

 和歌山県和歌山市加納の和歌山刑務所で合唱指導を18年間続けている同市島崎町の杉原治(いさお)さん(84)に、法務大臣から感謝状が贈られた。受刑者の更生や社会復帰を支える篤志面接委員として、長きにわたり音楽を通じて受刑者を温かく指導してきたことが評価された。

 杉原さんは和歌山大学学芸学部で声楽を学び、卒業後は県立高校の音楽科教諭や県立高校の校長などを務めた。赴任先で合唱部の指導にあたった他、県内の合唱団の育成にも力を尽くしてきた。

 同刑務所から声が掛かり、ボランティアの篤志面接委員となったのは2000年。「受刑者に情操教育を」と依頼され、刑務所内のコーラスクラブで月数回、女性受刑者たちに合唱指導を始めた。

 モットーは「まずは楽しく歌うこと」。みんなが知っている歌を選曲する。近年は外国人受刑者も多いことから、外国の民謡を歌ったり、年配者が多いときは美空ひばりの曲を歌ったりする。楽譜にはルビをふり、最後の数小節だけでも複数のパートに分かれ「ハーモニー」をつくりたいと編曲することもある。「歌を楽しんでほしい」と工夫を重ねてきた。

 刑務所内では、受刑者同士の私語が禁止されている。それだけに、コーラスの時間だけは大きな声が出せると受刑者たちの表情も緩む。わずか1時間のレッスンだが、杉原さんの軽快なピアノでみんな時間いっぱい歌う。

 「さっきの歌、父が好きだった歌です。懐かしく、うれしい」と打ち明けてくれた受刑者がいた。「歌には、人生を明るく生きていこうというメッセージが込められている。刑務所という閉ざされた空間だが、歌っている時間だけでも心を解き放ってほしい」と杉原さんは願う。

 年に1回、2月に行われる発表会で400人を前に練習成果を披露する。初めての舞台経験に達成感もひとしおで、みんな感激するという。本年度は連続テレビ小説「まんぷく」の主題歌や「花は咲く」「思い出のグリーングラス」などを歌うつもりだ。

 和歌山市民合唱団の指揮者も58年間務める。「いろんな合唱団を指導してきたが、刑務所もどこも同じ。みんなで大きな声を出して楽しく歌うのが一番で、情操教育だとは僕は思っていない」と朗らかに笑った。

「楽しく歌うのが一番」と話す杉原さん

「楽しく歌うのが一番」と話す杉原さん

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