加太の人、自然と交流 フィンランド人滞在

その青年は一人、毎日のように海岸に現れては、ひたすらに流れ着いたごみを拾い集める。昨年末から和歌山県和歌山市加太に滞在している、フィンランド人のアッテ・ヴァーナネンさん(34)。人情味あふれる漁師町・加太の人たちはそんな姿に心を打たれ、住む場所や食べ物を提供するなどして、温かい交流を深めている。

ヘルシンキに住むアッテさんが加太に来たのは昨年11月の末。日本の文化や自然に興味を持ち、東京や大阪、三重などを巡り、龍神温泉で目にした美しい加太の風景に感化されてたどり着いた。季節は冬、台風の後だったこともあり、海岸には多くのプラスチックごみなどが打ち
揚がっていた。フィンランドでは自然環境への意識が高く、アッテさんは衝撃を受けたという。

少しでも美しい浜にと、それ以降ほぼ毎日、海岸を歩いてごみ拾いをするようになった。当初はテントを張って生活。浜辺を掃除するアッテさんのことは、すぐに地域で知られるようになった。見かねた人が声を掛け、数人の家で寝泊まりしてもらうように。最近では、地域の人が離れの空き家を提供。アッテさんは「まちの人はみんな親切。上着も今では8着になりました」と笑顔を見せる。

神社で年末年始の準備を手伝ったり、獅子舞いの練習に参加したり。餅つきなど日本の伝統文化も体験し、すっかり地域にとけ込んだ生活を送っている。

そんなアッテさんの日常で、加太の人たちを驚かせる出来事がある。それは3日に一度は海で泳ぐこと。気温がマイナス20度以下という極寒のフィンランドで暮らすアッテさんにとって「日本の冬は思った以上に寒くない」という。一緒に銭湯に行くなど、身の回りの世話をする山下政利さん(67)は「泳ぐ姿を初めて見た時はびっくりしました。釣りをする人も、目を丸くして見ていましたよ」。

ラジオ体操で出会い、空手を指導する寺下明さん(67)は「清掃のボランティアをしていることが、国を超えて仲良くなる近道になった。地域の私たちでも、なかなかできないこと。そのお返しにいろんな体験をしてもらい、少しでも日本の良さを伝えてもらえれば」と話す。

ごみ拾いする姿に、「うちでご飯でも食べて行ったら」と声を掛けたのは、地元でとれた新鮮魚介を扱う「満幸商店Ⅱ」オーナーの山下牧子さん(60)。今では毎日のようにアッテさんが店を訪れ、山下さんの孫と一緒にサッカーをして面倒を見たり、店の作業を手伝うなどしているという。クリスマスには赤いサンタクロースの衣装で現れ、店内を盛り上げた。

山下さんは「昔からの知り合いみたいな感覚」とにっこり。「加太には『旅の人』という言葉があり、よそから来た人を温かく迎え入れるんです。この地域の人は、みんなおせっかい焼きなんですよ。都会では、こうはいかないでしょうね」

アッテさんの携帯電話の写真アルバムに残る画像は、ハマチやグレ、メバルなど釣り上げた数々の魚や、山で出合ったリスやイノシシなど。加太の人や自然との思い出がたくさん刻まれている。帰国の予定は2月中旬。「加太の魅力は人と海と森。ここへ来て食べた全ての料理がおいしく、永久的に住みたいと思うほど。自国に帰ったら、加太のすばらしい自然や人の温かさを伝えたい」と話している。

清掃活動をする海水浴場でアッテさん(左から2人目)を囲む加太の人たち

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