■2003鶴保庸介
補正予算が国会を通過した。和歌山県はわが国土交通省関連では補助率全国四位になっている。前年度が二十九位であるから大躍進である。関係各位のご努力に改めて感謝したい。ただこのような“ハード”行政の裏でひそかに私が力を入れていることがある。それは日本版リバースモーゲージの確立である。
ご存知の通り、日本人は高度経済成長時代から、自らの資産を増やすことに豊かさの価値を置いてきた。いつかはガレージ付きの家に。庭付きの家に。ところが夢をかなえた世代が直面したのは生産世代の年金では高齢者世代を支えきれないという現実。将来は先細るであろうといわれるわずかな年金を頼りに、子どもたちと別居しているお年寄りが広々とした家に寂しく住んでいる。このような事態を前にして私は年金給付と合わせてこの資産を担保にした、現金給付の仕組みづくりを提案しているのである。
私は厚生労働委員として長らく厚生行政にかかわってきた。ある日厚生労働省の幹部の一人に時間をくれと言われ、新橋の居酒屋で延々五時間にも及ぶ議論をしたことがある。あなたのような若い世代にこそ、年金に対する危機感がなくてはならない。近い将来に有効な手立てを打てないとこの国は傾いてしまうと熱弁を振るったふたまわりも年上の年金局長の目は真剣そのものであった。年金は好むと好まざるとにかかわらず積み立て型を移入せざるを得ない、しかしそれが具体化するまでは年金受給者の持つ資産を何とか活用して年金の破綻を避ける仕組みをつくれないものか。私は爾来、リバースモーゲージの「鬼」になった。
そうしたある日、国土交通省の政務官を拝命することになった。チャンス到来。早速住宅局の皆さんに協力を得て、検討会を作った。厚生労働省の所管事項に国土交通省がくちばしを入れる。大変な困難が予想されたが、これからはあなた方が主役になって日本の明日を作っていくんだと檄を飛ばした。
しかし、いくつかの問題が浮かび上がった。まず、中古住宅を担保にして現金収入を得るにも、わが国では中古住宅の価値が著しく低いため資産形成にかかったコストを考えると、とても売り出す人はいないだろうということである。何たることか。日本では土地を売りに出すときでも中古住宅が付いていると資産価値が下がるという。リフォームのきかない個性的な住宅が多い上、取り壊しに費用がかかるからである。アメリカ映画などでよく見かけるが、欧米人は壁や屋根の色を塗り替えたりして個性を発揮するが柱と屋根だけは何十年も使い続けられているのとは対照的である。
まず、取り壊す必要のない汎用性のある家を作らねばならない。
そしてその「立派さ」をきっちりと評価する中古住宅市場なるものをつくっていかねばならない。人生のステップアップとともに住宅も変わっていく社会。百年住宅の建設。でもこれでは年金行政の破綻に間に合わないと思っていた折、売りに出せなくても貸したいと思う人はいるはずです、と何度目かの検討会で発言するものがいた。すぐ検討、現在法案作成の準備段階に入っている。取りあえず、高齢者所有の住宅の賃貸をしやすくするスキームを作ることから始めている。(その後、一部新聞にも報道されてしまったが)中古住宅の評価基準の設定やら、中古住宅市場の創設に向けての関係者協議。いまだ道半ば。本稿でまとまった報告ができる日が必ず来ることを信じている。
(2003鶴保庸介)
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