■2005西博義
アスベスト(石綿)による健康被害が大きな社会問題となっている。
「アスベスト」 とは、 天然に産出する繊維状の鉱物である。 繊維の直径は髪の毛の数千分の一という細さで、 耐熱性や絶縁性などに優れ、 「奇跡の鉱物」 ともてはやされた。
その上、 安価に入手できるため、 昭和三十年代後半より輸入量が増加し、 昭和四十九年には年間三十五万トンを記録した。 平成に入ってからは毎年減少し、 昨年の輸入量は八千トンとなっている。
アスベストは90%が屋根材や内外壁材など建築資材として使用されている。 さらに、 煙突や自動車のブレーキなど、 その用途は広い。
原子力・火力発電所などに使われる耐熱絶縁板、 高温配管のシール材・ガスケットなど、 他に替わるべき材料がない特殊な用途もある。
アスベストによる健康被害は、 昭和四十年代から現れはじめた。
昭和四十七年、 ILO(国際労働機関)・WHO(世界保健機関)は、 アスベストをがんの原性物質と認定。 空気中に浮遊するアスベストの粉じんを吸い込むことによって、 肺がん、 胸膜や腹膜等にできる悪性中皮腫(がんの一種)などの健康障害を引き起こすおそれがあると指摘した。
国のアスベスト対策としては、 昭和四十六年に、 「特定化学物質等障害予防規則」 を制定し、 製造現場において換気装置を設置するなど粉じんが大気へ放出されないよう防止策を義務付けた。
昭和五十年には、 吹き付け作業の禁止や解体作業時に飛散しないよう散水するなど建設現場の対策を講じている。
さらに、 昭和五十一年、 アスベストで汚染された作業衣を家庭に持ち込むことによって周辺被害を起こさないよう関係者に通知した。
昨年度のアスベストによる肺がん・中皮腫の労災認定件数は百八十六件で、 前年度の一・五倍、 ここ数年増加傾向にある。
中皮腫の発症は、 アスベストを吸い込んでからの潜伏期間が三十年から四十年と長く、 被害者は、 アスベスト対策がなかった昭和四十六年以前に吸入した人に多いと見られている。
昭和四十六年以降に講じたアスベスト諸対策が効を奏していることを願っている。
去る七月二十二日、 私は、 厚生労働省アスベスト対策推進チーム委員長に任命された。
今回、 尼崎市のクボタの被害状況公表により、 アスベスト問題は、 これまでの企業内の労働災害という枠にとどまらず、 家族や周辺住民にまで被害が拡大しているという問題を提起している。
この事実を重く受け止め、 新たな対策をどう打ち出すか考えなければならない。
まずは、 健康への不安を感じている労働者や地域住民等に対し、 労災病院、 保健所において相談に応じたい。
すでに退職した労働者にも健康診断を実施するよう事業者に要請することにしている。
また、 有効な治療法が見つかっていない中皮腫の治療方法などについて、 専門家による調査研究を推進するなど、 アスベストによる健康被害対策を本格的に展開していきたい。
そして関係省庁とも連携しながら、 アスベスト代替品の開発を促進するとともに、 早期のアスベスト製品の全面禁止に向けて取り組む決意である。
(2005西博義)
|