■2011西博義
2月23日、 私は、TPPの問題で衆議院予算委員会の質問に立った。
TPPとは、「環太平洋戦略的経済連携協定 の英語略で、2006年にシンガポール、 ニュージーランド、ブルネイ、チリの4カ国間で発効した経済協定である。
関税を撤廃するだけでなく、税関手続、知的財産、政府調達、サービスなど24の分野で貿易にかかわる障壁をとり払い、ヒト・モノ・カネの流れを活発化させようという国際的な取り決めで、私たちが予想しない分野にまで影響が及ぶ可能性がある。
予算委員会での質問は、NHKで放映されたためか、その後、電話やメールなどで反響が寄せられた。
大別すると、 ①「菅総理がよく吟味しないで提案したことに驚いた」 ②「交渉開始前に信を問うのは賛成だ」というものであった。
TPPを議論する際、中身を正確に理解することが欠かせない。当然のことであるが、まずは、TPP協定を読むことからはじまる。ところが、インターネットや図書館で調べてもTPP協定の日本語訳がない。原文の協定文書は、160ページに及ぶ長い英文で専門用語が多く、なかなか読みこなしにくい。
そこで、政府に日本語訳があるのか尋ねてみたら、日本語訳は存在しないという。
少々意地悪かったが、予算委員会で、「全部お読みになりましたか」と聞くと、菅総理は「手にとって幾つかのページをめくってはみました」と答弁。
昨年10月1日の臨時国会の所信演説で、菅総理はTPP協定への参加検討を表明したが、その唐突感は否めなかった。今回は、その点を確認したいと思って質問したのである。
「平成の開国」と称し、内閣の目玉政策というわりには、正確な理解と熟慮を経た上での提案ではなかった。大変無責任である。
日本語訳は、私の指摘で5日後にようやく外務省より公表された。
さて、TPPへの参加については、国民の理解と納得が必要である。
ところが、協定の日本語訳をはじめ、政府から出される資料や情報は不十分である。
経済産業省は、TPPに参加しなければ10年後GDPが10兆5千億円、雇用が81・2万人減少すると試算。一方で、 農林水産省は、TPP参加により、GDPが7兆9千億円、雇用が350万人減少すると全く反対の試算をしている。
これらは、内容が不透明、または非現実的な前提に基づいており、こうした正反対の政府の試算は、混乱を招くだけで、国民の理解にはつながらない。
TPPに関する問題は、農業分野だけに限らない。ほかにも、例えば、医療分野では、社会保障が後退するのではないかと心配されている。経済の自由化が進み、混合診療が全面解禁されれば、診療報酬によらない自由価格の医療市場が拡大し、公的医療保険の範囲が縮小されるからである。
前述の多くの分野についての影響はほとんど議論されていないのである。
これではとうてい国民の理解と納得を得ることはできない。
なによりTPP交渉の主体者である政府が国民の信頼を得ているかどうか疑わしい。
翌日の農業関係の業界紙でもとり上げられたが、 「交渉開始前に、国民に信を問う」ことについての反響も多かったことを付言しておく。
(2011西博義)
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