2010年01月17日

00.社会

シベリアでの抑留記、和歌山市の遠藤さんが自分史発刊

シベリア抑留体験を偲ぶ

本のカバーも自分で描いた収容所風景

おととし6月に油彩画個展 「シベリア抑留体験を偲ぶ」 を県民文化会館で開き、 大きな反響を呼んだ和歌山市の遠藤敬一さん (89)がこのほど、 自分史 『湿原に咲く花』 を(株)新風書房から出版した。 10年前にまとめた自分史を加筆訂正し、 個展で展示した油彩画26点を収めている。 青春時代に約4年の軍隊生活と11年のシベリア抑留生活を強いられた遠藤さんは、 「暴力や戦争は、 正義、 不正義などに関係なく究極の悪。 本当の幸せをもたらすのは愛と優しさと思いやり」 と記している。

遠藤さんは大正9年 (1920) 和歌山市同心丁生まれ。 和歌山中学から徳島高等工業学校に進み東京で就職したが8カ月で入隊。 「青春時代は、 国を挙げての戦争によって根こそぎたたき壊された」 と語る。

「鉄拳制裁と苛 (いじ) めの毎日だった」 という初年兵を経てロシア語教育隊に派遣され、 ハルビン特務機関に転属。 技術関係の翻訳の仕事に携わった。 敗戦後は捕虜としてシベリア各地の収容所を渡り、 事実無根の罪状により懲役25年の実刑判決を受けた。 過酷な労働と環境で多くの仲間が亡くなり、 最後は日本人同士の激しい憎悪と対立に苦しめられたという。

決まっていた帰還が朝鮮戦争勃発のため中止になるなどの不運にも見舞われ、 帰国したのは昭和31年8月。 翻訳会社を創立し、 「荒波を乗り越えられたのは、 家族の愛と、 周囲の人々の優しさと思いやりのおかげ」 と振り返る。

自分史執筆は、 「昔の過ちを繰り返さないため、 子や孫に真実を語り伝えるのは生き残った者の責務」 との思いから。 苦闘の日々をつづりながらも、 満州の 「美しく澄んだ星空」 やシベリアの 「ピンク色の新芽に夕日が映える白樺の林」 に触れ、 モシカ収容所を 「人々の善意と優しさに囲まれた人間修行の場」 と記す。

本の題名は、 シベリアの劣悪な環境の中で、 春の訪れと共に一斉に咲き乱れ、 励まし慰めてくれた可憐な名もない草花からとった。 自らの心象風景でもあるという。

現在、 老人ホームで療養中の遠藤さんは、 「平和に暮らす市民の生活に、 突然襲いかかる戦争の脅威とはどういうものなのか、 わかってくださればありがたい」 「若者の世代には二度とこんな悲惨な思いをさせてはならない」 と話している。

『湿原に咲く花』 は平成21年12月8日発行。 355ページ、 定価2100円。 主要書店で取り扱い中。
遠藤敬一さん
遠藤さん





この記事と関連がありそうな過去の記事

powered by weblio


00.社会 - 同カテゴリの記事






カテゴリー
社会
事件・事故
政治・経済
スポーツ
文化・くらし
紀の川・岩出・海南・紀美野

これまでの特集
月別アーカイブ
株式会社 和歌山新報社
cypress.gif