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爆!釣り部
2009年02月26日
女魚拓師・中谷ま美vol.3 「レシピなどない」


■独立してから、さまざまな依頼が舞い込んだ。
グレやチヌ、スズキ、マダイなどの「定番」から
大きいものでは3㍍を超すカジキ。
中には死んでしまったペットのアロワナや
クマノミというものもあった。
 これまで取った魚拓の数は
実に2000枚超。
魚がよく釣れるシーズンや
いい潮回りの日には
玄関前で順番待ちの列ができることもしばしばで
女魚拓師・中谷ま美のうわさは
口コミで県内外に響き渡った。
春にはチヌ師からの依頼が多い。
「乗っ込みシーズンには
部屋の中がチヌ臭くなりましたよ」と笑うが
この定番のチヌでさえも
「レシピ」があって
同じ色で仕上げるわけではない。
 釣れる場所などにより、同じ魚種でも
見た目が変化する。
河口に潜むもの、荒磯で潮流にもまれるもの。
色だけでなく、ひれの張り具合
表面のぬめりなどに変化が出る。
その変化を見逃さないように
作品に反映する。
また、中谷さんは釣り人各自が持つ魚のイメージに
限りなく近づけようと、聞き取りもする。
「特にルアーマンは魚に対する愛着があり
個人個人のその魚に持つイメージがあると思うんです。
だからその人のイメージにできるだけ
近づけたいんです。
例えば、メジロとヒラマサを比べると
ヒラマサのほうが『男前』でしょ?
だから作品もヒラマサのほうが
顔つきがキリッとしてたり。
ほか、イシダイのオスとメスでは
縞模様が違うだけでなくて
顔つきもオスのほうが厳ついって思うんです…」
楽しそうに口にする言葉に、中谷さん自身が
本当に釣りが好きだということが垣間見える。
■中谷さんの作品は
師匠の林さんの作品とは若干異なってきている。
もちろん、基本は同じものだが
女性ならではの繊細さと
自らの研究が加わり
作品としての幅が広がっている感がある。
その芸術性は多くの釣り人が認めるところだが
本人はというと
「まだまだ林さんの域には達してないです」
とポツリ。
 半分本気、半分謙遜かと思いきや
そうでもない。
職人といえど客商売。
しかも相手は「釣り人」でこだわりがある人ばかり。
「実際の長さより長く書いて」などという
要望はまだかわいいもので
中には、関節を外して長くした魚
お腹に重りを詰め込んで重くした魚
また、クーラーに入らないという事情から
しっぽを切り落とした魚
頭を半分落としたような魚…。
それでも
「魚拓にして」
と言われたら
要望に応えなくてはならないと
出来る限りの処置を施す。
中谷さんのイメージと
客の持つイメージが合わないと
「こんなんちゃうやろ!」
と怒鳴られたり
「林さんやったら、こんなんやったのに」
と比べられることも。
「ほんま、何回も泣きました。
今でも、お客さんに見てもらうまでは
ずっと不安です」とこぼす。
そのため、客に作品を手渡すときは
つい顔色をうかがってしまう。
目があったとき、満面に笑みを浮かべ
「ありがとう。めっちゃうれしいわ。
イメージ以上の出来やで」
と、喜んでくれる客も多数いる。
そんな笑顔が中谷さんの糧になっている。
「喜んでくれるお客さんがいるから
頑張ってこれますね。
明日から、もっと勉強して
いいものを作らないとって」。
記者の
「これまでどんな作品が印象に残っていたか」
との問いには、少し間をおいて
「どの作品も私にとっては新鮮でした」
という答えが返ってきた。
中谷さんの「進化」はこれからも止まりそうにない。
  ◇           ◇ 
 今回、自分自身が釣った84㌢の
ヒラスズキの魚拓を取ってもらうため、
中谷さんにお会いしたのだが
釣りに対する熱い思いや、いろんな思い出が聞けて
非常に楽しい時間を過ごせた。
出来上がった作品も、私のイメージ通りで
非常に満足のいくものだった。
さらにあつかましくも、魚拓の色付けする
場面も見せてもらった。
作業場の机の上には幾本もの筆が並んでいる。
50㌢を超える大物のグレの魚拓だ。
作業にかかる前は談笑していたのだが
いざ筆を手にすると、とても話しかけられる
雰囲気ではなくなった。
大胆かつ繊細に動かされる指先
作品を見つめる真剣なまなざし。
ドライフラワーのように
渇いたモノクロの魚拓に
中谷さんの感性が重ねられ
息吹が吹き込まれていくよう。
最後にグレ特有の青い瞳が書き込まれた瞬間
命を失い枯れていた魚体が、まさに釣り上げられた
ばかりの、荒磯のあの美しいグレに蘇生した。

mamitakuweb.jpg
記者が依頼したヒラスズキの魚拓


2009年02月26日 21:34


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