銀幕への招待状 web版 Vol3
あの音楽を聴くと「地獄の黙示録」を思い出す人は多いと思う。ぼくもそうだ。容赦なく村を焼き払う戦闘ヘリの攻撃のバックに流れるあの曲。ワーグナーの「ワルキューレの騎行」を耳にしたドイツ反乱組織のリーダーは、有事に反乱勢力を鎮圧する「ワルキューレ作戦」を利用してヒトラーの暗殺とその後の政権奪取を思いつく…。
その反乱軍のリーダーを演じるのがハリウッドの頂点に立つトム・クルーズ。「トップ・ガン」で話題をさらった頃から、jジ・アメリカンボーイのイメージを身にまとったトムがドイツ人である反乱軍の将校を演じるというだけでなく、主要な登場人物がすべてアメリカ人の顔をしていることに違和感を感じる…というのは、最初だけだった。
歴史的な事実としてヒトラーは自決しているのだから、SFのパラレルワールドでもない限り、観客はこの「ワルキューレ作戦」は失敗することは分かっている。それにも関わらずグイグイと物語に引き込まれていくのは、映画が、ドイツという国や史実にこだわらず、「ヒトラー」というわかりやすい天下の大悪人とヒーロー軍団の対決というハリウッド流のわかりやすいドラマに仕立てられていたからだ。トムのアイパッチも反逆のヒーローというイメージを作り上げる小道具としてうまく機能している。それに、爆弾を持ってヒトラーの下に潜り込み爆発を確認して脱出する一連の流れは、とびきり極上のサスペンスを見ているような気分にさせる。
主人公の反乱組織のリーダー、シュタウフェンブルクはドイツでは救国の英雄として伝説化されているという。そのためかトム・クルーズが演じることに異論があったと聞く。
しかし、ぼくらがこの映画に求めているのはドイツの史実でも何でもない。ヒトラーという巨悪に挑む男たちの「スパイ大作戦」だった。そう、トム・クルーズは、ドイツ人になって「ミッション・インポシブル」を大見得を切った芝居で演じたのだ。
ちなみに、監督は「ユージュアル・サスペクツ」「X-メン」と守備範囲の広いブライアン・シンガー。なるほどね。 (山本哲也)