熊野古道中辺路に、晴明が災害防止に一役買った「止め岩」がひっそり残っている。
熊野古道中辺路ルートの中でも、野中の清水や一方杉、衝平桜など見所が集中していて明るい雰囲気が漂う野中地区。その中のメインスポットとも言える「とがの木茶屋」から古道を東に歩いて15分ほどのところに立て看板があり、その看板の後ろ側、小さい石段を上がったところに「止め岩」がある。
ここにある上部の平たい石は、安倍晴明の腰かけ石といわれるものである。平安時代の陰陽道の大家安倍晴明が熊野をめぐる途中でこの石に腰を下ろして休んでいた。その時、上方の山が急に崩れそうになったが、晴明は得意の呪術(まじない)によって、崩壊を未然に防いだと伝えられている。(オフィシャル看板文そのまま)
石段を上がったところは民家の庭先で、特に変哲の無い岩が埋もれている。住民によるものであろう、手作りの解説版がある。
トルストイの引用がいい味出しまくりで、観光用に作られたオフィシャル看板よりも何となく博が感じられる。自宅敷地内に観光客が入り込んでくる家主は大変だろうが、それをただ放置するでなく、きちんと自分なりの解説を加えて迎え入れている、このスタンスにちょっと感動した。世界遺産登録に小踊りし、道沿いにただ看板を立てるだけの行政は、その見せ方にもう少し工夫がいるのではなかろうか。
とがの木茶屋の名物おばさん(自称山婆)も、「晴明の足跡はここだけでなくもっと他にもあるはず。ちゃんと調べてもう少し力を入れて整備すべきではないか」と話しておられた。
この地区の古道は険しい斜面にへばりつくように古道が設けられており、県の防災地区にも指定されているそうだが、止め岩のおかげか、周辺に崩れる予兆は見られないという。