浅田真央選手にもらった感動 徹底して理想を追う勇気

阪口 直人

 今回は「がんばった」オリンピック選手について書きたいと思います。

 日本選手の活躍に沸いたソチ・オリンピック。羽生結弦選手の男子フィギュアスケート個人戦金メダル、レジェンド葛西紀明選手が41歳で手にした個人戦の銀、団体戦の銅メダルなどの活躍、本当に見事で、連日惹きつけられました。

 一方、女子フィギュアの浅田真央選手、ジャンプの高梨沙羅選手、モーグルの上村愛子選手などは惜しくもメダルを逃しましたが、競技後のすがすがしいコメントにはメダリストのコメントと同様に心を動かされました。

 私が特に感動したのは浅田真央選手のフリーの演技です。前日のショートプログラムでは全てのジャンプに失敗して何と16位。金メダルを取るために技術的に最も難しいプログラムを磨き上げて金メダルに挑戦したのに、最初のトリプルアクセルに失敗したショックから立ち直れないような演技とその得点には応援していて私も茫然自失でした。バンクーバーの銀メダル以上の結果をと努力を続けてきた本人はどれほどの喪失感に苛まれただろうと思うと心が痛みました。

 実は、フリー演技で使ったラフマニノフのピアノ協奏曲2番は私にとっても非常に思い出深い曲です。自分の人生の分岐点に立った時、究極の集中力が求められた時などは、この曲を聴くのがここ30年あまりの私の習慣でもあります。ラフマニノフ自身、人生の深い苦悩から立ち上がる過程をこの曲を通して表現したと言われていますが、浅田選手のプログラム、そして演技は、まさにそんな曲のモチーフを体現するものでした。

 多くの方が、天才少女としての浅田真央選手の鮮烈なデビューに驚き、一方で、体の成長から代名詞であるトリプルアクセルが跳べなくなり、表現力を磨きながらもこの技にこだわるがゆえに多くの挫折を経験してきたことを長年見つめ、応援してきたことと思います。オリンピックという場で、あえてこの技に挑戦する姿に自分の人生や価値観を投影しながら応援していた人も多いのではないでしょうか。

 難病から奇跡的によみがえった方について医療者からお話を聞いたことがあります。生存の可能性ゼロと言われる難病も、意志の力で脳に限界を超えることを命令することで、自己治癒力が生み出され、快方に向かうことがあるらしいです。彼女の最高の演技は、世界最高レベルのスケーターとしての本来の実力に加え、私たちの祈るような思いがひとつになって一段上の意志の力を引き出した結果だったとも思います。ジャンプを成功させるたびに躍動し、表情が輝いて、完璧に滑り切った姿。堪え切れずに流した涙と笑顔にはやり切った満足感があふれていました。彼女の演技を通して、大切な人と一緒に大きな試練を乗り越えた時のような幸福感、安堵感を共有できた感激が、多くの涙を誘った理由なのでしょうね。この感情、日本人だけでなく、プルシェンコ選手や長年のライバルだったキム・ヨナ選手、さらに中国などの外国のファンの間にも広がっていることを知り、何ともうれしい気持ちになりました。

 金メダルを狙う一番確率の高い方法は、自分のできること、できないことを見極めて自分の強みを最大化することだったと思います。でも、彼女はリスクを承知で自分の理想にこだわりました。金メダルは取れなかったけど、オリンピックにおけるメダルの価値観を変えるほどの演技に感謝を伝えたいです。

 私自身が追及すべきも徹底して理想を追う政治だと大きな勇気をもらいました。

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