【AR】移転から1年 食酢と酒の九重雜賀

 食酢と日本酒を手掛ける老舗、㈱九重雜賀(雜賀俊光社長)は、伝統の味を守るため、より適した上質な水と醸造環境を求め、昨年7月に紀の川市桃山町に本社を移した。移転後初めて仕込んだ商品は好評を博し、さらなる品質の向上を目指して2度目の日本酒の仕込みを迎える蔵を取材した。

 同社は明治41年から「九重酢」、昭和9年から日本酒「錦郷」を醸造している。食酢は酒粕を主原料としており、雜賀社長(46)の曾祖父の「より良い食酢を造るには酒粕から一貫して製造すべき」「食事に合う日本酒を造りたい」という思いを大切にし、食酢と日本酒の蔵元を守り続けてきた。

 「伝統の味を残すのが私の使命。子どもの頃からこの会社が好きなんです」と話す雜賀社長は昨年、岩出市からの本社移転を決断。桃畑の中にある現在の蔵は紀の川の伏流水に恵まれ、梅酒の製造蔵もほど近い。

 酒は10月半ばから翌年4月までの一季醸造だが、食酢は年中行う四季醸造のため、移転は商品の出荷、酢の製造とも継続しながら進めた。

 食酢は料理のベースに使われる調味料で、味が少しでも変わると、料理人は砂糖、しょう油など他の調味料の分量を全て変えることになりかねない。製造を続けながらの移転には神経を使った。

 食酢を醸造する木桶は60あり、酢酸菌を加え120日間、稲わらの「こも」で保温しながら醸す。発酵中の温度は約38度で、木桶の中はほんのり温かい。30~40日目は酢酸菌の活動が活発になり、その菌をすくって次の仕込みに使う。移転作業では、木桶を順に新しい蔵に移し、前の蔵で移転前の6月にすくっておいた酢酸菌を、新しい蔵の木桶に加えた。

 一方、酒については、環境が変わると同じ製法でも同じ味が出せるかどうか分からないという課題があったが、「客の期待に応えられるように」という思いで基本に忠実に造ることに力を注いだ。その思いは「良くなったね」という顧客の声で報われた。

 昨年末には、日本酒「雑賀 純米吟醸」がANA国際線のファーストクラスとビジネスクラスのメニューに採用され、期間限定で乗客に提供された。

 先月には、移転報告会と酒蔵見学会を行い、全国の蔵元、販売店、食酢関係者など約100人から祝福を受けた。

 現在、専用の日本酒で梅を漬けた梅酒を、さらに瓶内で2次発酵させたシャンパンのような新しい梅酒商品を開発中。雜賀社長は「皆さまの期待に応えられるよう、新しい環境で日々、品質の向上に努め、県外、海外にも和歌山の伝統の味を伝えていきたい」と、さらなる未来を見つめている。

醸造中の食酢の状態について話す雜賀社長㊧と従業員

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