移民画家・国吉と石垣 近代美術館で特別展

 特別展「アメリカへ渡った二人 国吉康雄と石垣栄太郎」が24日まで、県立近代美術館(和歌山市吹上)で開かれている。ほぼ同時期に戦前のアメリカへ移民として渡り、太平洋戦争を挟みながら、画家として活躍した岡山県出身の国吉康雄(1889―1953)と、太地町出身の石垣栄太郎(1893―1958)の足跡をたどる展覧会。同館では「作風の異なる対照的な2人が併走し、時折交わるような展示会場。作品を見比べ、時代をたどりながら鑑賞して」と呼び掛けている。

 ともに10代でアメリカへ渡り、画家を目指していた2人は美術学校で出会い、親しい友人関係を結んでいる。今展では2人の作品114点と関係資料47点を展示。作品には日本人移民排斥や大恐慌、第2次世界大戦と、激しく揺れ動くアメリカ社会を生きる上での複雑な思いが表れている。

 しかしその表現は対照的で、展覧会の入り口に掲げられた2人の作品が物語る。第1次世界大戦の退役軍人のデモの様子を描いた石垣の「ボーナス・マーチ」は力強く、国吉の「ミスターエース」は道化師が不敵な笑みを浮かべる。

 戦争が始まると、「敵性外国人」として扱われたこともあったが、国吉は自由と民主主義の理想を掲げるアメリカを信じ、日本の軍国主義を批判。戦後は現存画家として最初の回顧展が開かれるなど、アメリカを代表する画家として認められた。ただ、64歳で亡くなるまで同国の市民権を得ることはかなわなかった。

 一方の石垣は、生活や風俗を取り上げ、社会主義に傾倒する中、さまざまな問題を告発する絵画を残している。

 同館の奥村一郎学芸員は「物事をありのままに描き、感情をストレートに伝える石垣と、深い心情を巧みに画面に忍ばせる国吉。アメリカ画壇で高い評価を受けた国吉は、石垣のように表現できない面があったのでは」と話す。

 石垣が制作に取り組んだものの、非難を浴びて撤去され、失われたと思われていたハーレム裁判所のための壁画「奴隷解放」の一部がアメリカで発見され、今回日本で初めて展示されている。

 奥村学芸員は「2人が抱えていた問題は、決して過去のことでは済ませられない。移民や人種差別、戦争など、今私たちが直面する出来事に照らし合わせ、もう一度見つめ直す機会なのだと思います」と話している。

 月曜休館。観覧料は一般700円、大学生400円。問い合わせは同館(℡073・436・8690)。

対照的な表現の国吉㊧と石垣の作品が隣り合う

対照的な表現の国吉㊧と石垣の作品が隣り合う

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