憧れの紀州の「真景」 県立博物館で企画展

 実際に目にした風景を描き、江戸時代中期から盛んになった「真景図」をテーマにした企画展が10月6日まで、和歌山県立博物館(和歌山市吹上)で開かれている。真景図を語る上で欠かせない紀州の画家・桑山玉洲(くわやま・ぎょくしゅう、1746~99)ら多くの作家たちが描いた熊野や富士山の作品など22件が並び、西洋の遠近法を取り入れるなど、江戸後期にかけての真景図の画法の変化も見ることができる。

 江戸時代以前の日本は、戦乱や交通事情などにより一般の人々が気軽に旅をすることは困難だったが、徳川幕府によって戦乱が終わり、街道が整備されたことに伴い、旅や実際の風景への人々の関心が高まり、江戸中期から後期にかけて、旅をした画家が景勝地などを描いた「真景図」が流行した。

 企画展「真景図―旅する画家が見た風景―」は4章構成で、第1章は和歌浦に生まれた桑山玉洲の作品や画論書を紹介している。

 江戸中期の真景図は、日本に実在する場所を中国の風景に見立てて描くことに重きが置かれ、「富岳図襖(ふすま)」では、威厳に満ちた富士山を、裾野の水景、村落の広がりなどとともに描いている。「那智山・熊野橋柱巌(はしぐいいわ)図屏風(びょうぶ)」は、南紀の代表的な景観である那智の滝(那智勝浦町)と橋杭岩(串本町)を雄大に描写。いずれの作品も、10世紀ごろの中国の画家・董源(とうげん)の筆法を用いたと記されている。

 第2章は、玉洲と同時代に和歌山城下に生まれた野呂介石(のろ・かいせき、1747~1828)らを紹介。紀州藩主・徳川治宝(はるとみ)に高く評価され、多くの門人も育てた介石による、熊野の山々を描いた穏やかな山水画や、後世の模写、門人の作品などが並ぶ。

 第3章は、祈りと景勝の道として古くから知られた熊野三山や吉野など、紀伊半島の風景を描いたさまざまな画家の作品を紹介。山々に広がる満開の桜を緻密に描いた矢倉安安の「吉野図巻」などが見られる。

 第4章は、西洋の遠近法が取り入れられ、現代人にもより自然に感じられる表現になった江戸後期の作品を、島﨑玉淵(しまざき・ぎょくえん、1793~1858)を中心に紹介。滋賀県立近代美術館の改修工事に伴い、和歌山県立博物館が一時保管している琵琶湖や松島を眺望した作品が並んでおり、同館で見ることができる貴重な機会となっている。

 同館の袴田舞学芸員は「全国の真景図をリードする画家が和歌山にいた。紀伊半島の自然景観は江戸時代も憧れの場所であり、多くの人を引きつけた和歌山を、真景図を通して知ってほしい」と話している。

 午前9時半から午後5時(入館は4時半)まで。月曜休館。学芸員による展示解説が29日、10月5日の午後1時半からある。入館料は一般280円、大学生170円、高校生以下と65歳以上は無料。問い合わせは同館(℡073・436・8670)。

南紀の景観を描いた桑山玉洲「那智山・熊野橋柱巌図屏風」

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