「一人じゃない」歌で伝える 内川樺月さん

関西地区を中心に音楽活動をしている和歌山県和歌山市出身のシンガー・ソングライター内川樺月(かつき)さん(28)は、心の悩みを抱える人に歌を届けたいと「ゲートキーパーシンガー」として活動の幅を広げている。ライブでは命をテーマにした曲「ヒカリへ」に涙する人も多く、歌が心に届いていると実感するという。春は特に、心のバランスを崩しやすい時期。内川さんは今後も、孤独を感じている人に「自分は一人ではない」と顔を上げてもらえるような曲を作り、ステージに立ち続けたいと願っている。

「ゲートキーパー」は、自殺の危険を示すサインに気付き声を掛けたり話を聞いたりして支援する人のこと。2007年に閣議決定された「自殺総合対策大綱」で、支援者の養成が重点施策の一つとして掲げられ、国内各地で講座が実施されている。

内川さんは17年、NPO法人心のSOSサポートネット主催のイベント「いのち♡大切キャンペーン」にゲスト出演したことをきっかけに受講。悩んでいる人に耳を傾けることの大切さを学んだ後、イベントで知り合った精神科の医師から、自殺願望を抱きながら思いとどまった50代男性の手記を手渡された。

手記に記された孤立している人のつらさに思いをはせると自身の心もふさぎがちになったが、幼い頃から抱いていた「人の役に立つことがしたい」との思いを実現しようと、手記をテーマに曲を制作することに。

男性が歩いたという白浜町の三段壁に夜間に出掛け、岸壁に波の打ち寄せる景色を見つめると、恐怖心だけでなく大きな自然に包まれ安心するような感覚が湧き起こった。肌で感じた自然の癒やしの力を曲作りに反映させ、半年をかけて「ヒカリへ」が完成。歌詞には手記の中から「満天の星空」という言葉を使い「男性が生きていることが誰かの光になれば」と、願いを込めた。

ステージで「見上げればほら満天の光がいつも僕らへと輝く」と希望に満ちたメッセージを、落ち着いたメロディーと優しく力強い声で表現。男性とはことし対面を果たし「こんな僕でも誰かの役に立てたのですね」と言われ感極まった。

内川さんには、共に音楽活動をしていた仲間が20代で自死したという体験がある。葬儀やその後の気持ちの沈む日々で、いなくなったはずの人の気配が感じられたり夢で再会することができた経験を曲に込め、今後は遺族の心にも寄り添いたいと願う。

仲間の死に直面した当初、食事や睡眠をとることも惜しむように泣いてばかりいた経験からも、内川さんは泣くことに悲しみを乗り越える力があると信じ歌い続ける。

ステージで「ヒカリへ」を歌う内川さん

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