小さな手に感謝 山﨑さん視機能教材贈る

難病で視力を失い、全国信用組合中央協会主催の第11回懸賞作文「小さな助け合いの物語賞」で最高賞に選ばれた和歌山市職員の山﨑浩敬(ひろたか)さん(58)が25日、「長年通勤バスの乗降を手助けしてくれたお礼に」と、和歌山大学付属小学校(同市吹上、北垣有信校長)に視覚機能を向上させる教材を寄贈した。作文に登場する児童ら4人と対面し、互いに感謝の気持ちを伝え合った。

「あたたかな小さい手のリレー」という題の受賞作品は、32歳の時に進行性の目の難病「網膜色素変性症」と診断された山﨑さんが、白杖を持ちバス通勤する際、同校の児童らが声掛けをしたり席を譲ったりしながら、10年以上途切れることなく支え続けてくれているという実体験をつづったもの。

同じバスで通学する山﨑さんに、同小学校の女子児童が「バスが来ました」と知らせ、入り口で「階段です」と声を掛けるなど、サポートしてくれたという。

女子児童が卒業した後も、活動は引き継がれ、別の児童が手助けしたり声を掛けたり、交流が続いている。

山﨑さんは今回の受賞で得た賞金で「日めくり子どものビジョントレーニング」を購入し、同校に寄贈した。視覚機能を改善に導く五つのトレーニングを日めくり形式で紹介する同商品は、書く力、集中力、読む力、運動力、イメージ力の向上に効果が期待できるという。北垣校長は「しっかりと有効活用させていただきます」と感謝を伝えた。

寄贈式には、山﨑さんをサポートした中学2年の女子生徒(14)、その一つ年下の妹(12)、小学校2年の末の妹(8)の3姉妹と、小4の女子児童(9)が出席。

4人と対面した山﨑さんは「1番つらかった時、バス停へ行く楽しみができ、外へ出ることのしんどさが消えました。退職まで残り1年ほどだけれど、ここまで頑張れたのは同校の子どもたちのおかげ。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとう」と笑顔で伝えた。

中学2年の女子生徒は「初めての時はどうすればいいか分からなかったけれど、声を掛けたら優しく接してくれてうれしかったです。将来、医療系の仕事に就くのが夢になりました」、中学1年の女子生徒は「山﨑さんと話すのが楽しみでした。私も感謝しています」と話した。

新型コロナウイルスの影響で、現在、山﨑さんは時差出勤中。昨春から児童の通学時間と合わなくなり、「早くコロナが終息して、また一緒にバスに乗りたい」と話した。小2の女子児童は「最近会っていなかったからどうしたのか不安だったし、寂しかった。また山﨑さんと一緒に行きたい」と話した。

小4の女子児童は「山﨑さんに出会ったおかげで不自由な人をサポートするという夢ができました。人を大切にする気持ちがいじめや事件などをなくすことにもつながると思う」と話した。

山﨑さんは「子どもたちが、バスが来たよと言いながら服を引っ張ったり腰を押してくれたり、本来は、正しくはない手引きだけれど、それが楽しく温かくうれしかった。正しい手引きを教えることなくこれまで来たが、今後は学校でそういった指導もできれば」と笑顔。「車椅子や松葉づえなど、町で困っている人はたくさんいます。気後れせず声を掛けて助けてあげてください」と児童らに呼び掛けていた。

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