WAKAYAMA NEWS HARBOR
和歌山さんぽみちプロジェクト

菓子店「飯島商店」の取り組み

最盛期と比べ生産量が8分の1にまで減少した「三宝柑」であるが、その味わいを評価し、菓子に加工し積極的な販売を行う菓子店がある。
和歌山市から北東へ約360㌔にある長野県上田市。長野県の東部に位置し、千曲川が流れる自然豊かな地。真田昌幸が築城した上田城が市の中心部にある。
北陸新幹線が通る上田駅の程近くに、創業から200年を超える老舗の菓子店がある。株式会社飯島商店。重厚な造りの立派な洋館で、和歌山県産の三宝柑を使ったさまざまな菓子が販売されている。
きっかけは1977年にさかのぼる。ジャムの原料として使用していた夏柑が不作で、他の柑橘(かんきつ)がないか青果問屋で議論をしている際、偶然居合わせた和歌山県民から三宝柑を紹介された。実際に現地を訪れ、ジャムに適していると判断したという。
その際、農家から、三宝柑は伐採推奨品目に指定され、伐採することで奨励金がもらえるため、長く取引することは難しいと言われた。それを聞いた先代の社長が、この味わいと歴史的価値を踏まえ品種保存に取り組まねば三宝柑は絶滅し、重大な損失になると危惧。農家に伐採を待ってもらい、消費量を増やそうと、次々に商品を開発。ジャムをはじめ、同社の看板商品である「みすゞ飴」のラインナップに加えられ、羊羹やゼリー、ピールなど、魅力を余すことなく使った商品は、どれも素晴らしい味わいである。
店内では三宝柑の商品を求める客が多く、遠く離れた信州の地で、三宝柑の名が自然に飛び交う光景に、筆者は胸に熱いものが込み上げてきた。
同社は現在も和歌山県内の農家に三宝柑の苗木を全額補助する取り組みを続けている。食から柑橘の品種を守る。持続可能な柑橘栽培の先進事例がここにある。(次田尚弘/上田市)