レコード盤に人生重ね コレクター中村さん

歌謡曲の黄金時代といわれる昭和30年代から40年代にかけての、愛好者には垂ぜんのアナログレコードの名盤のジャケットがずらりと並ぶ。これら約1万枚を所有するのは、和歌山市有家のレコードコレクター中村正一さん(76)。時に励まされ、慰められ、青春時代とともにあった昭和歌謡は特別だという。ドーナツ盤に記録された音楽は色あせることなく「集めたレコードは歩んできた人生そのもの」とほほ笑む。

元小学校長。初めてレコードを買ったのは高校生の頃で、吉永小百合の『寒い朝』だった。当時は平均月給が1万2000円という時代。レコードは290円と高価だったため、本格的に収集するようになったのは教職に就いてから。研修会で訪れた先などで、中古レコードを求めて全国のレコードショップを巡った。宿の門限が迫る中、膨大な数の中からお目当てのレコードを見つけ出すのは、宝探しのような作業だったという。

ポップスやクラシックなど、国内外・ジャンルを問わず収集。廃盤になって入手困難なものも多く、和歌山を題材にした曲や和歌山の人が歌ったものもある。

高価で、若い頃に買いたくても買えなかったことへの反動もあり、気付けば「出回った昭和歌謡のレコードは、ほぼそろったのでは」と思えるほどの枚数に。特に思い出深いのは、30代半ばごろ、和歌山市のイズミヤに小宮恵子がキャンペーンで訪れ、購入したレコード『幸せを掴んじゃおう』にサインをしてもらったこと。「『幸せは どこにある』で始まり、歌詞がたまらなくいいんです」と、しみじみ振り返る。

レコードの魅力は、ジャケットのデザイン、デジタルにはない音の温もりなどが挙げられるが、プレーヤーにセットし、レコードの盤面に針を落とす瞬間は格別という。

「与えられる音でなく、自分のものに音を取り入れる作業というか…。ボタン一つを押すのと違い、何とも表現しがたい『間』に深みを感じますね」

収集したものを、どう文化に役立てられるか、常に模索してきた。コレクションを紹介するミュージアムをつくりたいとの思いもあるという。

最も好きな歌手は舟木一夫。「高校三年生」がヒットした際に自身もちょうど高3だったこともあり、歌詞が深く心に染みるという。

「今の若い人の音楽はファッションのようなもので、感覚的な要素が強い気がします。昭和歌謡は歌詞に深い意味が込められ、聴く人もまた、将来の夢や決意を重ねたものです」と懐かしむ。

中村さんのコレクションから、昭和40年代の流行歌を紹介する講座「歌は世につれ昭和歌謡 後編」が10月9日午後2時から、和歌山市本町のフォルテワジマ2階特設会場で開かれる。

中村さんは「眠っていたレコードが日の目を見ることになり、皆さんに聴いてもらえるのはうれしい。ぜひ青春時代を思い出してもらえれば」と呼び掛けている。

無料。希望者は直接会場へ。

貴重なレコードの数々と中村さん

貴重なレコードの数々と中村さん

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