「黒字化」へ発進 たま電車ミュージアム号

二度とつくれないワンダーランド――。車両デザイナーの巨匠と称される水戸岡鋭治さん(74)がこう話し、自身の集大成として渾身(こんしん)の思いを込めてデザインした新車両「たま電車ミュージアム号」が完成し、伊太祈曽駅で2日、お披露目式典が行われた。床から天井まで360度どこを見てもネコだらけ。同号には777匹ものネコが隠れているといい、車内には世界でも初となる、ネコの鳴き声がする木製のからくりを設置するなど、見たことのないような豪華列車となっている。

和歌山電鐵㈱(和歌山市伊太祈曽)は2月、同号の詳細デザインを発表するとともに、同社初となるクラウドファンディング(CF)でサポーターを募集。同社によると、CFで集まった約1900万円が改装費の一部に充てられ、9月に運行を終了した「おもちゃ電車」を改装し、新車両に生まれ変わった。

お披露目式典には、同社執行役員ウルトラ駅長のニタマや、よんたま伊太祈駅長も出席。同社の小嶋光信社長は、「本当に『あっ』と驚く楽しさばかり。世界を代表する面白い電車に普通運賃で乗っていただけるのが、最大の恩返し」と話し、「ありがとニャ」と腕に抱いたニタマの声を代弁しながら多くの支援に感謝した。当初は濃い茶色のデザインだった車体については、「黒字を祈念して黒にしました」とにっこり。

来賓で出席した仁坂吉伸県知事は、「びっくり仰天の電車で、一日中ここから動きたくないというほど」と感嘆の声を上げた。同線の運営をサポートしている「貴志川線の未来を〝つくる〟会」の木村幹生代表は、「コロナ禍が襲ってきたが、全国のサポーターのおかげで『再びやるぞ』という勇気が出た。孫の代までも走り続ける鉄道になるよう頑張りたい」と決意を新たにした。

水戸岡さんは、「多くの方々に支援していただき、とんでもないものにしないと許されない」との思いでデザインを手掛けたとし、「夢や希望など一つひとつを拾い集めて、ホテルやレストラン、図書館、遊園地など、たまのワンダーランドが展開されているので、たまたちと楽しいひとときを過ごしてもらえれば」と期待を込めた。

テープカットの後、関係者や集まった人への内覧会が開かれ、息子の真於(まお)ちゃん(1)と一緒に訪れた同市の松本理奈さん(29)は、「かっこいい」と目を輝かせ、「高校生の時、毎日通学で使っていた貴志川線が、もっと広まってほしい」と願っていた。

幅広い世代の乗客らが、ゆっくりと時間をかけながら車内のひとときを楽しむ様子を前に、水戸岡さんは「ずっと車内にいる、写真を撮りたくなるということは楽しいものがつくれたんだなと思う」と安堵(あんど)の表情で完成の喜びをかみ締めていた。

新車両は、4日に一般運行を開始する。デビュー記念として、3000枚限定で一日乗車券(800円)も販売される。和歌山駅9番ホーム窓口、伊太祈曽駅、貴志駅で販売。大人券のみ。

問い合わせは同社(℡073・478・0110)。

黒字を祈念し漆黒にしたという新号の車体

黒字を祈念し漆黒にしたという新号の車体

 

新車両の完成を祝いテープカットする小嶋社長(中央)ら

新車両の完成を祝いテープカットする小嶋社長(中央)ら

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