選手、スタンド一心同体 アルプス観戦記

甲子園のアルプススタンドから本社に送ったLINE(ライン)の文章は短かった。「僕の春が終わりました」――。センバツ大会準々決勝、市和歌山が大阪桐蔭に大差で敗れた直後だった。急激な脱力感に襲われ、思わずメッセージを打ち、気付いた。そうか、自分もグラウンドの選手と一緒に戦っていたんだと…。

ベスト8進出を決めた市和歌山と甲子園初勝利を上げた和歌山東。アルプススタンドで全5試合を見つめた新米記者の目には新鮮に映り、興奮させてくれた。

甲子園球場で高校野球を見るのは筆者にとって初めての経験。プロ野球観戦で見慣れた球場のはずなのに、アルプススタンドから見た景色はいつもと違って見えた。まるで和歌山の魂を背負った気分にさせる。

三重県出身の筆者は、高校野球に全く思い入れがなかった。野球部の威圧的な態度に対して学生時代から苦手意識を持っていたからだ。

大会前、出場した市和歌山と和歌山東を取材すると、それまで抱いていた野球部へのイメージが一変した。グラウンドに顔を出せば、筆者のもとに歩み寄り、しっかりあいさつ。こちらの慣れない質問にも、嫌な顔一つせず応じてくれた。

コロナ禍で取材が制限される中、思うような取材活動ができず歯痒い思いもあったが、紙面に載った両校関係者の表情や笑顔はとても晴れやかだった。

大会が始まると選手の保護者、吹奏楽部、バトン部と話す機会も増えた。初めは恥ずかしそうに答えていたが、話すうちに、こちらの期待以上のエピソードも話してくれた。

中でも米田天翼(つばさ)投手の父隆英さん(51)は、試合前の米田投手の状態や表情まで明かしてくれた。選手インタビューでは聞けない貴重な情報を提供してくれた器の大きさに感謝しかない。

そんな声を拾うたびに、一緒に戦っているんだという筆者の思いはスタンド全員と同じだと確信した。それがベスト8、甲子園初勝利を後押ししたように思えてならない。

高校野球のイメージを変えてくれた和歌山の野球を夏も追い掛けたい。

(太田 陽介)

 

サヨナラ勝ちを決め盛り上がるバトン部ら(27日の明秀日立戦)

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