脱炭素社会とエネルギー価格高騰 ――長期的な視点から

岸本 周平

ロシアによるウクライナ侵攻からおよそ3カ月が経ち、今後も長引くことが予想されます。原油や天然ガスの輸出大国であるロシアへの経済制裁も長期化することになり、資源価格の高騰も続くおそれがあります。
ガソリン、軽油などの価格の急騰に対する緊急避難対策として、トリガー条項の発動の議論もあり、補助金の上限額がリッター当たり5円から35円に引き上げられ、基準価格はリッター172円から168円に引き下げられました。
資源価格の乱高下に対して、経済への悪影響を防ぐためには必要な措置ですが、これが長期化することは、市場の価格メカニズムに介入することになり様々な問題も生じます。
今後の考え方については、今年3月にIEA(国際エネルギー機関)が出した「EUが、ロシア天然ガスへの依存を減らす10のポイント」というレポートが参考になります。
本レポートを要約すれば、「①異常な需給の逼迫なので、価格上昇はしかたがない。②新たな供給確保と需要の抑制による価格の抑制が重要。③経済全体のコストは、社会全体で適正に配分すべきである。企業には経費削減や他の収益確保の手段があるが、弱い消費者にはそうした手段がないため、所得政策が必要。④市場の価格メカニズムは政策決定のシグナルとして重視すべき」として、このような方策が、経済的にも効率的、かつ効果的であり、公平であるとされています。
具体的に、需要抑制策として、建物や産業のエネルギー効率の改善を加速し、暖房の設定温度をさらに1℃下げることなども提案されています。1970年代のオイルショック時には、日本でもテレビの深夜放送の休止やネオンサインの自粛など国民にも負担をお願いしましたが、今回はそこが甘く、国民の危機感が薄いように思います。
値段が高ければエネルギーの節約につながりますが、日本は補助金によって価格を下げ、市場メカニズムをゆがめており、長期的な政策としては的はずれになります。この際、価格メカニズムによる省エネ型、脱炭素型の経済構造を目指すべきです。
オイルショックの時に、日本企業が徹底的な省エネの努力をしたことがその後の日本経済の強さをもたらしました。今こそ、政府と国民が心を一つにして省エネ、脱炭素社会の実現に挑戦すべき時です。

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