半世紀の歴史受け継ぎ 喫茶雅園が新装

歴史を絶やすことなく、地域コミュニティーを受け継ぎたい――。ことし3月、51年の歴史に幕を下ろした和歌山県紀の川市西大井の「喫茶雅園(がえん)」がこのほど、運営元を変えてリニューアルオープンした。近くでパン店を営む東直樹さん(52)が新オーナーを務め、大学生の娘、詩歩さん(25)がPRを担当する。午前中は前オーナーも店に立ち、地域の常連客と、インスタグラムを見て訪れる若者とが世代を超えて会話を楽しむ、新たなコミュニティーが誕生した。

同店は1970年に開店。旧打田町では最も古い歴史を持つ。前オーナーの山本美和さん(58)が母親と共に長年店を切り盛りしてきたが、料理を担当していた母親が施設に入ることとなり、1人では続けることができず、寂しい思いを胸に閉店した。

「行くとこなくなったんよ」という一人の常連客の言葉で閉店を知ったという東さんは、詩歩さんと共に「何とかして地域コミュニティーの場を守りたい」と方法を模索。店を引き継ぐ意思を固めて山本さんに相談すると、「知らん人やったら無理やったけど、安心できる」と快諾してくれた。

東さんは「こだわりが詰まった店を改装されるのは嫌やろうな」と、自身を重ねながら創業者の思いに寄り添い、趣ある外装や内装はできるだけそのまま残し、美装に徹した。

山本さんに依頼し、午前中は毎日店に立ってもらうことに。メニューはご飯系からパン系に一新し、ついに先月、リニューアルオープンの日を迎えた。

プレオープンの日には、再開を待ちわびた常連客らが訪れにぎわった。1人で来店した客らが、順番にテーブル席に座り、みんなで会話を楽しむ姿に、詩歩さんは「1人住まいの人も多いので、来たら誰か知り合いがいる、そんな場所がなくならなくて良かった」と安堵(あんど)の表情を見せる。

お薦めメニューは、詩歩さんが幼い頃、手伝いをすれば店のカウンターで飲ませてもらえたという思い出の「クリームソーダ」。レトロなグラスに注ぎ、見た目にもこだわっている。その他、一日10食限定の「厚切りカツサンド」や、波照間黒蜜のコクと香りを楽しめる「黒蜜きな粉トースト」も人気。

純喫茶ブームもあり、インスタグラムを見て遠方から訪れる若者も多く、常連客の間では初めて聞く「インスタ」という言葉が流行中。店内では世代間交流も盛んで、常連客にとってはいい刺激になり、若い世代にとっては勉強になる会話も多いという。

あえてWi―Fi(ワイファイ)を導入しておらず、詩歩さんは「ゆっくりしていってもらいたい」と笑顔。50年以上続く地域コミュニティーの場が、世代を超えた新たなコミュニティーの場に生まれ変わる姿を見つめながら、山本さんは「100年続いてほしい」と願っている。

 

思い出のクリームソーダと笑顔の詩歩さん

 

純喫茶の趣ある店内

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