クロマスク本州初記録 向陽高生が論文発表

夢は魚類学者――。和歌山県立向陽高校環境科学科1年生の脇本総志さん(15)=和歌山市=が、串本町で自ら採集して標本にしたヘビギンポ科の魚「クロマスク」について、標本に基づく本州での初記録かつ北限記録として、県立自然博物館(海南市)の國島大河学芸員と共に論文を発表した。鹿児島大学総合研究博物館のオンライン学術誌「ICHTHY」に掲載されている。

幼い頃から姿や形が多種多様に異なる〝魚〟に魅了され続けているという脇本さん。魚に興味を持ったのは、すし店を営む祖父がきかっけ。釣り上げた魚やさばく様子を間近で見ながら、いろいろな姿や形があることに気付き、「面白い」と興味を持った。

初めて釣りをしたのは小学1年生の頃。自ら採った魚を観察できるうれしさは高校生になった今も変わらず、珍しい個体との出合いを求めて紀南まで釣りに出掛けることもある。

昨年5月、紀北では見られない海水魚を採集しようと串本町を訪れた際、網に掛かったのが「これまで見たことがなかった」クロマスクだった。体長5㌢ほどと小さく、背びれが三つあるのが特徴。雄は顎の下が黒く、マスクをしているように見えることが名前の由来とされる。

最初に採集した個体は雌だったため、7月に再度串本を訪れて雄を採集し、同館で標本に。國島学芸員が集めた多くの論文と標本を照らし合わせながら、背びれの位置や数、形などさまざまな部位を計測して種同定を行い、3カ月ほどかけて「クロマスク」と同定された。

インド洋、西太平洋に広く分布し、日本国内では伊豆諸島、小笠原諸島、琉球列島で標本に基づく記録があるが、本州での記録は初めて。脇本さんは「まさかクロマスクが採れるとは思っていなかったのでうれしかった」と振り返り、「串本には他にも本州にはいないとされている魚がいるのでは」とさらなる発見の可能性に期待する。

同定後は論文の執筆を開始。脇本さんは昨年1月にも本州初の標本にした「キテンハタ」の論文を執筆しており、今回で2回目。「見たことのない生き物を見つけた時に、何だろうと調べて論文にして報告する、その工程の大切さを分かってほしい」と願う。

國島学芸員は100年後も残る標本の重要性を指摘し、「基礎研究をきちんと記録として残すことが博物館としての使命。地球温暖化などによる気候変動が進んだ100年後、200年後には大発見となっているかもしれない」と話す。

魚類学者を目指し、すでに新たな論文を執筆し始めている脇本さんの次の目標は、採集、観察からさらに進め、「自分が研究したテーマを論文にすること」。加太でよく採集するというイトヒキハゼの威嚇行動について、密度によってどのような変化があるかなど、自身が疑問に思ったことを追究し、論文にまとめられたらと意気込む。

そんな脇本さんの姿勢に國島学芸員は「中高生でも論文を書けるということを、〝好き〟というモチベーションと努力で、身をもって示してくれた」とたたえ、「同じような職を目指す仲間が増えてうれしい」と笑顔。「研究は論文にするだけじゃないので、純粋な興味に従って、いろんなことに挑戦してもらいたい」とエールを送った。

 

論文を手に笑顔の脇本さん㊨と國島学芸員

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