地域に愛され122年 文具店オーヤマ閉店へ

和歌山市橋向丁にある創業122年の老舗文具店「文房創庫オーヤマ」が12月末で閉店する。4000種類以上の豊富な品ぞろえを誇り、頼れるまちの文具店として、地域の人に愛されてきた。閉店を惜しむ多くの声が寄せられる中、大山典男社長(74)は沈痛な表情を浮かべ「苦渋の選択だった」と話す。

閉店を知らせる貼り紙が掲示されたのは11月下旬。以降、店内は多くの人でにぎわっている。

孫のために鉛筆削りを買ったという70代の女性は「店はずっと残ってほしかった。だんだん昔からあるお店がなくなるのは寂しい」、10代の頃からよく買い物に来ていたという50代の女性は「閉店すると聞いて慌てて来た」と悲しげな表情。

同店は1900年12月、初代の大山種太郎が紙、筆、墨を扱う「大山紙店」として創業。戦後は文房具、オフィス家具、事務機器の卸業を営んできた。61年に㈱オーヤマと、文具大手コクヨの商品を扱っていた部門を独立させ、㈱和歌山コクヨを設立。最盛期は両社合わせて社員数は100人を超えていたという。

91年に父の跡を継ぎ、初代の孫で5代目の大山典男社長が就任。2年後、取引先の倒産などを理由に卸業を辞め、法人・個人向けの小売業に業務転換を図った。「卸からの脱却」を掲げ、明るいイメージでお客さんに親しみを持ってもらえるよう、建物をブルーと黄色に塗り替え、店名を「文房創庫オーヤマ」とした。また、自社でオリジナル商品を開発。ヒットを生み出すなど、業績を上げていった。

対面での丁寧な接客対応が多くの信頼を得て、支持されてきた。大山社長は「ここに来たら何でもそろう、無いものでも取り寄せる。長年、卸をしてきたので仕入れルートがあるのが強みだった」という。

しかし、2000年に入り、文具はホームセンターや100円ショップ、インターネットでも便利に買えるようになっていき、徐々に客足は減少。一時は、定休日だった日曜日に営業するなどの策を打ってきた。

大山社長が廃業を考え始めたのは約10年前。社員に定年退職者が増え、新入社員を入れなければならないものの「この状態で人を入れて大丈夫なんだろうか」と悩むようになった。また、後継者がいないのも大きな問題だった。何とか継続できる方法を模索し、社内でも十分に話し合いを重ねたが、前向きな答えは出なかった。

さらに新型コロナウイルスの影響で、企業から筆記具やコピー用紙などの文具、オフィス家具の注文が激減。大山社長は、「売り上げの多くを占めていただけにしんどかった」と明かす。

廃業を決断したのは1年前。「社員18人の年齢構成を見たら、タイムリミットは迫っていると思った。決めるなら今しかない」

大山社長は苦渋の決断をし、仏壇の前で先祖に「申し訳ない」と深く頭を下げたという。

同店では現在、これまでの感謝を込めて店内全品、値札から20%オフの閉店セールを行っている。

大山社長は「1900年の創業以来、たくさんのお客さんに愛していただき、感謝しかない。これまで本当にありがとうございました」と思いを伝えた。
営業は29日まで。

閉店を惜しみ多くの人が訪れている

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