「畑のロス」なくしたい 松原さんら活動

和歌山県紀の川市東毛で主に柿を生産する、まつばら農園の6代目、松原好佑さん(34)は、変形や傷などが原因で出荷できずに農園内で廃棄される「畑のロス」をなくす取り組み、「のうかのしゅくだい」プロジェクトを始めた。現在は第1弾として、果物の繊維を用いた和紙で一筆箋を作っている。松原さんの思いに共感した市内2人の農家も加わった。3月4日までクラウドファンディング(CF)も行い、廃棄の現実や取り組みの周知を図る。

畑のロスは流通されずに捨てられるため、廃棄量として数値化されていないが、一般的に柿で生産量の約3%といわれている。同農園では年間約50㌧の柿を生産し、約1・5㌧を農園内に廃棄している。松原さんは全ての農家が抱くこの課題の解決に向けて、廃棄物に新たな価値を見いだして再生する「アップサイクル」に取り組んでいる。

2022年夏には、市内農家の6次産業化を支援する同市のプロジェクト「Local Co-Creation Project in紀の川」に応募。東京で活動する同市出身のアートディレクター・上田崇史さん、静岡で料理を通して社会問題の解決に取り組む小鉢ひろかさんとチームを組み、同市の認定ブランド「ISSEKI(いっせき)」として、廃棄される果物を活用した製品作りについて考えた。

3人は話し合いを重ね、果物や野菜の繊維から和紙を作っている福井県越前市の㈱五十嵐製紙に注目した。3人は実際に同社を訪問。紙の原料不足で困っていると知り、互いの課題解決につながると感じて、同農園で廃棄される柿を用いた和紙を作ることを決めた。

和紙は同社で制作。果物をミキサーにかけた後にコウゾなどの紙の素材を混ぜ、すいて薄くのばし、乾燥させて作る。完成した和紙は、人と人をつなぎ手元に残るようにと、一筆箋「もったいない畑のくだものでつくった一筆箋」として販売する。紀の川市の農家では初の試みとなる。

 

一筆箋を手に(左から)松嶋さん、松原さん、中山さん

 


共感・支援の輪広がる 活動周知へCFも

松原さんの「一生懸命に作った物なので最後までちゃんと目を向けたい」との思いに共感した、四十八瀬紀ノ川ファミリー(同市名手上)の中山英樹さん(49)と成farm(同市粉河)の松嶋成俊さん(42)も共に取り組んでいる。松原さんの柿の他、中山さんのキウイと松嶋さんのイチジクの3種類の一筆箋を制作。

柿の一筆箋は、皮や果肉のオレンジ色が残るやわらかな色合い。キウイは果皮が特徴的で、イチジクはピンク色の果肉と皮が優しい印象。大きさは縦17・4㌢、横8・2㌢。1袋各10枚入り。3月中旬ごろから、同農園のオンラインショップで販売を予定している。

松原さんは廃棄の現実や取り組みを知ってもらおうと、クラウドファンディングも行っている。リターンとして一筆箋の入手も可能。支援は3000円~15万円の計10種類。同農園の果物や講演などのリターンもある。目標金額は30万円。集まった支援金は、廃棄される果物を使った新商品の開発などに使用される。

松原さんは「取り組みを通して、まずは紀の川市の果物の廃棄を全てなくしたい」と話し、「畑のロスは全ての農家が困っている。同じ悩みを持つ農家と課題解決に向けて一緒に考えていきたい。取り組みを通して現実を幅広い世代の人に知ってもらい、日本の農作物の廃棄がなくなるきっかけになれば」と意気込んでいる。今後は共に取り組む農家を増やし、ノートやポストカード、名刺、包装紙なども作っていきたいという。

関連記事

同じカテゴリのニュース一覧