アロチの灯支え79年 「一心」が閉店へ

79年の歴史がある、和歌山市の繁華街・新内(あろち)の和食・うどんの「一心(いっしん)」が24日、閉店する。「アロチ」かいわいの時代の移り変わりを見てきた2代目・森清浩さん(故人)の妻、桂子さん(82)は「ここまでようやってきたなと思う。たくさんの人に支えてもらった、感無量です」と感謝を伝えている。

閉店の理由は、主に人手不足と、新型コロナウイルス感染症拡大での時短営業の影響が大きいという。

お酒を飲んだ後、〆のうどんを食べようと来店する人が多かった時間帯に営業ができなくなり、それまで午後10時以降働いていた従業員も辞めてしまった。

再開するも、働き手は戻らず。宴会や団体予約が徐々に戻りつつあったが、予約を受け付けたくても従業員を確保できず、断わらざるを得なかった。

3代目で現店主の森弘勝さん(53)は「ランチ営業を始めるなどスタイルを変えていったが、状況は変わらず閉店することを決めた」と話す。

 

新内を見守ってきた「一心」

 

同店は、戦後間もない頃に初代の森春太郎さんが和歌山市内で創業し、巻きずしやバッテラを中心に販売。生きることや生活で精いっぱいの当時、自分でできることから、こつこつと一心に心を込めてとの思いから、「一心」と名付けた。

その後、現在の場所に移転。桂子さんは活気があった当時を振り返り「新内かいわいはお茶屋さんがあって、芸子さんの町としてにぎわっていた」と話す。町を歩けば、「こんぴらふねふね」と、お座敷遊びの唄や三味線の音色が聞こえ、着物姿の芸子さんや舞妓さんが行き交っていたという。

その頃から、お茶屋に料理を届ける「仕出し」が、一般家庭にも広がっていった。懐石やすしなどが、家庭のだんらんのお供に定着した。

高度経済成長期には新年会や忘年会、接待など宴会文化が広がり、100人を超える規模の団体客も珍しくなかった。名物のてっちり鍋も人気で、忘年会シーズンには連日のように団体客が入った。

店内に人が入り切らず、店舗兼住宅だった自宅スペースを開放することもしばしば。2、3階から食器が何百枚と下りてきて営業時間内に洗い切れないほどだったという。

バブル期には新内かいわいも飲食店が増え、すれ違いには肩と肩が触れるほどの人でにぎわった。

その後、生活が便利になり、コンビニエンスストアや回転ずし、飲食宅配代行サービスなどの登場で巻きずしや仕出しのニーズが減っていった。

コロナ禍での大打撃に弘勝さんは「良い節目かな。一心で学んだことを忘れず前に進んでいきたい」と決意。桂子さんは「夫が亡くなった時、やめようかと思ったが、お客さまから『続けてよ』と言われ、今に至ります。続けてきて良かった。誇りと感謝を忘れることはございません。ありがとうございました」と笑顔で思いを伝えた。

 

時代の移り変わりを見てきた桂子さん

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