■2002世耕弘成
よく「日本のIT化が遅れている」と、自虐的に言う人がいるが本当だろうか?私は逆に日本は現在のところインフラの整備の面から見て世界で最も順調に、IT化が進んでいる国だと思っている。
九月八日から十八日にかけて私はインド、スリランカ、シンガポールを訪問し、各国のIT事情を中心に視察してきた。特に訪問前から期待していたのは、IT大国との呼び声の高いインドのIT化がどのように進んでいるかをつぶさに検証することであった。
しかし、インドは決してIT大国ではなかった。確かに小学校時代から掛け算を十九×十九まで暗記させることなどが原因で、数字に強いソフトウェア開発の技術者数が多いことを活かして、バンガロールやハイデラバードといったソフトウェア産業の集積地を形成していることで注目を浴びてはいる。しかし、しょせんは米国ソフト産業の下請けであり、米国のIT不況で受注量が減少し経営が悪化している。
また、この二都市以外ではITのインフラ整備がほとんど進んでいない。電話の普及率さえインドネシアやタイの後塵を拝している状態である。パスワンIT担当大臣にインフラ整備の計画などについて問うたが、満足な答えは返ってはこなかった。
現在米国ではクリントン時代のIT政策が大幅に見直されようとしている。クリントン政権下で行われた過度の規制緩和と自由化によりADSLを中心とするインターネット接続業者が乱立、過当競争の結果、ほとんどが倒産するという状態になってしまった。そして生き残った業者が値上げを行ったため一般家庭へのブロードバンドインターネットの普及が進まなくなっている。さらに通信業界の不正経理問題が混乱に拍車をかけている。
日本では森内閣時代に定めたe―Japan基本戦略の下、適度な競争政策を展開し、着実にブロードバンドのインフラ整備と価格の低廉化を進めてきた。日本のADSL料金は世界で一番安くなっている。普及数もあと一年程度で世界一になるであろう。しかも日本は光ファイバー網の整備を着々と進めている。この和歌山市内でも光ファイバーを用いた本格的高速インターネットが月一万円を切る価格で家庭向けに提供されている。こんな国は日本だけである。携帯インターネット利用でも世界のトップを独走している。
もちろんインフラ整備だけでIT革命は進まない。米国はハリウッド映画を中心とする大量のコンテンツが強みである。インドの人材育成の方法にも学ぶべき点はたくさんある。しかし、日本はもっとも手間のかかるインフラ整備の面で他を引き離して先行しているのである。今後このインフラと家電・自動車を中心とするものづくりが融合すれば大きな発展の可能性が生まれてくる。日本はいたずらに卑下することなく、コンテンツや人材育成の弱点を補強しながら自信を持ってIT革命を維進し、国の活性化を進めていくべきである。
(2002世耕弘成)
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