■2002西博義
芸術・文化の秋、今年も日本人がノーベル賞を受賞し、明るい話題に日本中が沸いた。
まず十月八日、ノーベル物理学賞に東大名誉教授・小柴昌俊氏が「宇宙ニュートリノの検出」で受賞。翌九日には、ノーベル化学賞に、島津製作所ライフサイエンス研究所主任田中耕一氏の「たんばく質の新しい解析法」が輝いた。
私もこの二日間、新聞を読みながら、二人の研究成果に興奮しっぱなしであった。
ニュートリノは、物質を構成する素粒子の一つで、宇宙空間に大量に飛び散っているが、電気的に中性で、ほかの粒子とほとんど反応しない。
その存在は、約七十年前に予言されていたが、人間はおろか、地球でさえも平気で貫くこの「幽霊粒子」を小柴氏は壮大な仕掛けで見事に捕らえた。
その仕掛けとは、岐阜県神岡町のニュートリノ以外には到達できない地下千メートルにある巨大な観測装置「カミオカンデ」である。
小柴氏は、東大を退官する一カ月前、十六万年光年という宇宙のかなたで爆発した星から飛び散った無数のニュートリノのうち、わずか十一個の観測に成功した。
一方の田中氏は、大学卒の企業の研究者である。
人間の遺伝情報がすべて解明された現在、遺伝子が作り出す、たんぱく質の機能や構造をいかに解明するかが焦点になっている。田中氏はたんぱく質の機能や構造を解明する新分析法を開発した。
この技術は、ガンの診断、食品の有害物質検査、新薬の開発など、応用分野も広い。
田中氏の受賞は、大学だけでなく、日本企業の科学技術の高さを証明するものとなった。
今、教育の場では、“理科離れ”が問題となっている。調査では、中学校で、顕著な“理科離れ”が見られ、大人になるにしたがって理科や科学への関心が低くなる傾向という。
今年一月の文部科学省「科学技術に関する意識調査」では、それを裏付けるかのように、国民の科学技術に対する理解度や関心度は十四カ国の先進国の中で十二位と最低レベルであった。
わくわくしながら理科の実験をしていた小学生のころとは違って、公式や知識の暗記型の勉強が中心では、多くの中学生が興味を失うのは無理もないと思う。
小柴氏は、学生時代、「成績は良くなかった」といい、また、田中氏は博士号を持たない研究者である。しかし、二人とも、自然の持つ不思議さに魅せられ、「なぜだろう、どうしてだろう」という“科学する心”を持ち続けてきたのではないかと思う。
今回、われわれは、そうした“科学する心”がいかに大事なことであるかということを改めて教えられたような気がする。
私もこれまで、科学技術基本法の制定や基本計画の推進に努めてきたが、“科学する心”を育てられるような教育、科学技術の振興に一層努めていきたい。
(2002西博義)
|