■2011鶴保庸介
相変わらずの放射能騒ぎに辟易(へきえき)されていることだと思います。
そんな中、 私を支援してくださっているある方から、 「 『セシウム』 を吸収させ、 沈殿させる能力を持った物質がある」 とのお話をいただきました。
連日のようにテレビで放映されていることですから、 多くの方々もピンとくるようになっていると思いますが、 放射性物質の中では特に残存期間が30年と長く、 処理に厄介だといわれているセシウム、 あれです。
興味を持って聞いてみると、 この物質は放射能自体をおさえるのではなく、 放射能を持ったセシウムと化学結合して物質化、 体内被曝を抑えたり処理をしやすくするのだ、 という少々表現の難しい答え。
要は放射能汚染の進んだ水などを処理するには大量の水ごと隔離して封じ込めたりやなんやらの処理をしなければならなかったものを、 この物質を水に混ぜると成分がセシウムのみを吸着して沈殿するから、 その沈殿部分を取りだして処理すればよいのだ、 というのです。 「了解、 それなら東京電力に」 というと、 驚くべき答えが。
「実は以前からこの物質の存在は広く知られていて、 チェルノブイリ原発事故の後処理などにも使われてきました。 しかし、 そんな実績のあるものだからこそ、 東京電力でもいまだ使われていないのが不思議なぐらいだったのです。 そこで話を持って行ったのですが、 『放射能処理のすべてはアレバというフランスの会社にまかせてあるから』 との答えで取り合ってくれません。 日本の会社が東工大などの専門家が効果ありと認めるものを持っているのに、 これでこの国は大丈夫なんでしょうか」 という。
時あたかも入浴剤をまいて 「高濃度汚染水」 を海に流していたころ。
高度な技術力を持っていると信じていた国民の原子力行政への信頼が揺らいでいたころのことでもあり、 東京電力はなぜリスクを負ってでもやってみようとしないのでしょうか、 と憤慨(ふんがい)されていたのです。
私には原子力の知識もありませんし東京電力の事情も知りません。 しかし、 この 「事なかれ主義」 体質がすべての沈滞を生んできたのであり、 ひいては国民のやる気をそいできたという思いのみで、 東京電力に掛け合いました。
「オールジャパンで取り組まねばならないこの非常事態に、あなた方東京電力はなぜ国産の技術をまず採用してみようと思わないのか。彼らは儲け主義でこの物質を納入してくれといっているのではない。 誇り高き日本の技術がフランスに丸投げせねばならないほど情けないものだったと思いたくないという一念だ」
私の言葉が功を奏したかどうかは定かではありませんが、 結果として、 今後東京電力としても積極的に採用を考えていくとの答えを得て、 一件落着と一人悦に入っていました(先日新聞にでていた青色顔料がそれです)。
しかしその後新たな問題が出てきました。
それは本来この物質の持ち味は農産物への放射能汚染、 特に牛などの家畜に牧草などを通じて放射能汚染物質が体内に取り込まれ、 ミルク等に混入することの危険を避けることができるというところにあるため、 今度は農水省にも掛け合おう、となったのです。
この物質はセシウムに吸着したまま体内に取り込まれてもそのまま糞の形で90%以上が体外に排出されます。 したがってこの物質をまけば、 ミルクに放射能はでなくなる。 ひいては牛を殺処分する必要はなくなる!
当初は私も農水省は東京電力と同じように、 経緯はともあれ検討しようと言ってくれるものと信じていました。 しかし、 チェルノブイリで使われていたことなどは知悉(ちしつ)しているにもかかわらず、 あまり気のりしない様子。
私はまだそれが何を意味するのかを理解できずにいましたが、 実はおぞましい事実が横たわっていたのです。 農水省の役人はふとこう言いました。「この処理をしたら誰が費用を負担することになるんでしょうか。 最終的に東京電力に持ってもらうとしても、 この薬剤散布など処理の一連の費用は国は負担できません。 法律上国が権限として認められているのは殺処分だけですから」。 要は殺処分なら国が直接お金をだし、 その費用を後日東京電力側に請求できるが、 家畜を守ろうとすると法律がなく、 農家が自発的にやらないと国としては何ともできない、 というのです!
先日も2時間の一時帰宅が放射能警戒区域で認められた折り、 「牛に会えるのが楽しみだ」 としみじみ語っていた畜産農家がテレビで報じられていましたが、 農家にとって何年もかけて育て上げてきた家畜は家族同然ということだと思います。
事実、 福島県の佐藤知事と電話で話をした際、 農家の一番の悩みは家畜を何とか生き延ばしてやれないか、 ということでした。
それを 『殺す』 ことしか法律が想定していない。
なんとかこうしたことに手立てを打つ法律を作ってやりたいが今回は間に合わない。
どうしたものか。 あれこれ手を尽くしているうちに政府は12日、 殺処分を発表してしまいました。
なぜこの物質を実験的にせよ使ってみるまで処分を待てないのか。 想定外のことが起こっているのに決められたことでしか発想できないようではこの国に未来はないとつくづく思うのですが。
さあこれから戦いが始まります。
(2011鶴保庸介)
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