staffblog_title.gif
 スタッフ総出で綴ります
« オイシス | メイン | 桃源郷 »

[]
2009年04月10日
ゆるい空気が心地よく 「ホノカアボーイ」


銀幕への招待状 web版  Vol4
  
honokaaboy.jpg この流れはおそらく2006年の「かもめ食堂」あたりからはじまったのだろう。何か事件らしいことが起こるわけでもなく、登場人物に悪い人はどこを探してもいない。食べる事に意味を見いだす以外には、ひたすらゆるい空気が流れているだけ。好き嫌いはあるのだろうけど、ぼくは時々無性にこの手の映画を見たくなってしまう。
 「ホノカアボーイ」は、年老いた日系人が多く住むホノカアへ引き寄せられるように住み着いた青年レオのなんでもない話だ。やたら現実的な恋人とムーンボーと呼ばれる「月の虹」を見るためにやってきたハワイで迷い込んだ町ホノカア。その恋人にふられ再びやってきたのがホノカアだった。映画館を手伝うことになったレオを迎える日系人たちがいい。新しいエロ本をレオにねだる老人に喜味こいし。いつも暇な床屋に正司照枝。ほのぬるい風景に溶け込むようにポツンといる老人の佇まいは、かつては濃い芸風だった関西芸人の枯れた味が心地よい。そういえば、レオに少女のようなほのかな恋心を抱く倍賞千恵子の可愛い老女ぶりもすてきだ。「男はつらいよ」のサクラ役から14年、なんといい具合に年を重ねているのだろう。レオに食事をつくることで幸せな気分に浸り。新しい服を「ちゃんと見てほしい」と、食べる事に夢中なレオの回りでいそいそ。レオが連れてきたガールフレンドに仕掛ける危険ないたずら。何もかもが少女のような仕草で心地よく酔わせる。
 このゆるい空気は残念ながら、ぼくらの日常でなかなか出会えない。と言うか、出会ってしまうと案外、退屈なモノかもしれない。時間に追われながらも瞬間の楽しみにギリギリの悦楽を覚える日常。そんな生き方に慣れてしまうとスクリーンの中のゆるい空気が心地よい。当分ぼくは、この手の映画に惹かれてしまうだろう。(山本哲也)


2009年04月10日 21:44


shimpo_banner.jpg
わかやま新報は、和歌山市を中心とする和歌山県北部唯一の日刊新聞です。

Yahoo! JAPAN

  • ウェブ全体を検索
  • このサイト内を検索

最近のエントリー
atom

StaffBlog一覧

アーカイブ