関節炎など治療に期待 県立医大ら研究

間質性肺炎や関節炎などを引き起こす難治性の遺伝性炎症疾患「COPA症候群」について、和歌山県立医科大学などの研究チームは、患者から発見した遺伝子バリアント(遺伝子の違い)を実験動物のマウスに導入し、病態を再現するモデルマウスを作成することに成功したと発表した。今後このマウスを解析することで、同症候群や間質性肺炎のメカニズムの解明、新たな治療法の開発が進むことが期待される。

同大医学部先端医学研究所生体調節機構研究部の改正恒康教授、同部大学院生の加藤喬さん、京都大学大学院医学研究科発達小児科学の井澤和司助教らの共同研究による成果で、6月28日、改正教授と加藤さんが県立医大で記者会見した。

同症候群は、細胞内のタンパク質の輸送を担う機能を阻害する遺伝子バリアントが原因と考えられてきたが、どのように疾患に関与するかはこれまで不明で、治療法も確立されていない。

今回の研究では、約2年かけ、同症候群の患者から発見した新たな遺伝子バリアントを導入したマウスを遺伝子改変技術で作成し、解析してきたところ、患者と同様の間質性肺炎が認められた。

さらに、患者の細胞では、体内で作られる炎症に関与する物質「Ⅰ型インターフェロン」によって誘導される遺伝子群の発現が進むことが知られているが、このマウスの脾臓(ひぞう)細胞で同様の状態が確認された。

これらの結果から、このマウスは同症候群の病態を反映するモデルマウスとして有用であると分かった。

研究チームは次に、ウイルスやがん細胞由来の核酸の刺激に反応してⅠ型インターフェロンの産生を誘導する機能分子「STING(スティング)」に注目。免疫機能を担うマウスの樹状細胞で、Ⅰ型インターフェロンの産生量や、スティングの細胞内での所在を調べた。

スティングは刺激を受けると、細胞内の小胞体からゴルジ体に移動し、Ⅰ型インターフェロンの産生を強力に誘導する。マウスの樹状細胞内では、スティングによるⅠ型インターフェロンの産生が進むとともに、スティングがゴルジ体に集まっていることが確認された。

Ⅰ型インターフェロンは、適切に産生されるとウイルス感染やがん細胞に対して防御機能を発揮する一方、過剰に産生されると炎症を引き起こし、臓器などにダメージを与える。

今回の研究で、同症候群のモデルマウスでは、スティングによるⅠ型インターフェロンの過剰な産生が生じ、炎症につながっている可能性が示唆された。

今後、モデルマウスをさらに解析することで、樹状細胞の免疫機能を制御するメカニズムの解明も期待される。

改正教授は「ウイルス性疾患やがんなどの新たな治療に貢献できる可能性がある」と話していた。

今回の研究成果は5月13日、国際学術誌「アースライティス・アンド・リューマトロジー」にオンラインで掲載された。

研究成果を説明する改正教授㊨と加藤さん

研究成果を説明する改正教授㊨と加藤さん