|
|
「万トンの水を支えて」(1999)と谷井さん |
木版画歴約50年。 米寿記念展を6日からギャラリーけまりで開く。 「今までと違う展覧会にしたい。 新旧の作品を並べ、 皆さんと版画の特質や、 主題を大切にする心と表現について語り合いたい」 とにこやかに話す。
テーマは 「版画は彫るな」 (!?)。 「いや、 むやみに彫るな、 彫り過ぎるなという意味ですよ」 と笑顔で。 画面の4分の3をも占める作品 「御堂」 の黒や作品 「雪」 の白は、 一切彫っていない。 その黒の中から、 多くの灯籠 (とうろう) がつるされた御堂の天井の高さ厳かさが、 白からは降り積もった雪の静けさ重さが伝わってくる。
「周りを彫ることで、 彫ってないところに意味を持たせることができる。 何があるか見る人が想像する。 そこが版画の魅力であり愉快なところです」。
◇
きっかけは、 棟方志功とともに日本板画院を支えた版画家、 故・長谷川富三郎氏との出会い。 担任していた学級 (小学校) の子どもたちの版画を見てもらうと、 何かを感じてくれたのか、 長谷川氏に 「あなたの作品を見せてください」 と言われた。 「私は作っていません」 と答えると、 「あなたもやりなさい。 東京へ出しなさい」。
そして初出品 (昭和50年の第25回板院展) で 「準日本板画院賞」 を受賞。 以来数々の賞をとり、 昨年の第59回では長谷川富三郎賞 (棟方志功賞に次ぐ) を受賞した。 「お世話になった先生の名の賞は本当にうれしかった。 記念展では、 先生からの手紙や朱の入った下絵など思い出の品々も紹介したい」 と話す。
◇
郷愁誘う古民家や町並み、 雄大な風景が好きだ。 絵になる風景を求め、 奥さんと車で全国を走った。 ニュースで雪が降ったと知ると、 仕事を終えた土曜の午後に出発した。 「万トンの水を支えて」 (大台ヶ原、 池原ダム) は構図を決めるため3年通った。 巨大な堰 (せき) に人間の素晴らしい営みを感じたという。
「長谷川先生は、 『描き始めてから完成するまで、 持ち続けられるような感動。 これが主題だ』 とよく言われました。 主題を表現するために題材や構図や色彩があるのです」。 傘寿の際に記した思いは今も変わらない。
「原画を決めるのに頭を使い、 彫る仕事で指先を、 摺(す)る仕事で全身運動...長生きは版画のおかげです。 そして大切なのは人の和です」。
(千)
米寿記念 木版画作品展6~11日午前10時~午後5時。
会場は和歌山市九番丁のギャラリーけまり (TEL0734323000)。
|
04.文化・くらし - 同カテゴリの記事
|