地域バス実証運行へ 和市6地区で今秋から

新型コロナウイルスの影響で公共交通の利用者が急減していることを受け、和歌山市は、公共交通が不便な市内6地区で、商業施設や病院などを経由して既存の鉄道駅やバス停に接続する「地域バス」を走らせる実証運行を、今秋から5カ月程度行う。地域の移動手段を確保し、苦境にある公共交通の活性化につなげる狙いがある。

市交通政策課によると、市内の公共交通利用者は、車社会の進展や少子高齢化などにより以前から減少が進んでいたが、コロナ禍でさらに大きく減り、事業者の経営は一層厳しくなっている。

鉄道の市内駅の年間利用者数は、コロナ禍前後の19年度と20年度の比較で、JRが1230万6750人から947万5374人に、南海電鉄が631万6977人から452万9250人に、それぞれ20%を超える減少。路線バスの減少幅はさらに大きく、823万9000人から45・5%減の448万7000人にほぼ半減した。鉄道、バスとも21年度はやや回復したが、深刻な落ち込みに変わりはない。

地域バスの実証運行は、路線バスが廃止となったり、もともと運行していなかったり、公共交通が不便な木本、湊、有功、安原、川永、四箇郷の6地区を対象に実施。運賃は1回当たり一律100円に設定し、90分に1便程度の運行頻度を想定しているが、運行ルートやダイヤなどは、各地域の要望を踏まえて今後詳細に検討する。

湊、木本、有功の3地区では、昨年11~12月にも実証運行を行い、今回が2回目。前回の利用者数は湊580人(1便当たり0・8人)、木本1503人(同2・2人)、有功1268人(同1・5人)にとどまったが、住民から継続を求める声も寄せられ、運行内容を再検討の上、2回目に臨む。

さらに、13年度から地元住民が運営主体の地域バス「紀三井寺団地線」を運行している紀三井寺地区でも利用者数の急減がみられることから、6地区の実証運行に合わせ、現在200円の運賃を100円とするなどの運営補助を行う。

各地区とも料金100円とするのは、誰もが乗りやすくすることに加え、接続する既存の駅やバス停での乗り換え利用を促す目的もある。さらに利用を促進するため、定額料金で一定期間乗り放題とするサブスクリプションも導入する。

実証運行と運営補助の事業費は3599万5000円を見込み、市はこれを含む22年度一般会計補正予算案を、開会中の6月市議会に提出している。

市は2日、公共交通事業者や関係行政機関、学識経験者らによる市公共交通政策推進協議会の本年度第1回会合を開き、地域バスの実証運行について協議。

公共交通事業者からは、黒字路線の収益で赤字路線を維持してきた従来の手法が、コロナ禍による利用者急減で成り立たなくなっていることなど、厳しい現状が紹介された。

また、実証運行では、住民主体を原則としてきた地域バスの運行に行政が強く関与することになるため、「全国には行政がやりすぎて住民の参画がなくなり、利用が伸びず失敗した事例もある。うまくバランスを探ってほしい」とする意見もあった。

出席した尾花正啓市長は「このままでは地域の公共交通がなくなってしまうかもしれないとの危機感を持っている。思い切った社会実験をやりたい」と理解を求めた。

 

地域バスの実証運行について議論した和歌山市公共交通政策推進協議会