伝統の大作り物に幕 伊勢部柿本神社


写真を見ながら思い出話に花を咲かせる矢倉さん㊧と塩﨑宮司

 毎年、伊勢部柿本神社(海南市日方、塩﨑昇宮司)の夏祭りの呼び物「大作り物」を手掛けてきた同市の元漆器蒔絵職人、矢倉真弓さん(87)が、大作り物の制作を引退する。大作り物の奉納は明治初期から続く海南の伝統行事で、近年は唯一、同神社で続けられていたが、幕を下ろすことになった。ことしの夏祭り(10、11日)は、矢倉さんと神社がこれまで撮りためてきた大作り物の写真展を開き、歴史を締めくくる。

 大作り物は、漆器、和傘、シュロ加工などの職人が多くいた同市内の祭りの呼び物の一つとして親しまれてきたが、後継者不足に悩まされ、作り手が減少。近年は矢倉さんただ一人となっていた。

 同神社では、矢倉さんの父で蒔絵職人だった故慶之助さん(享年88)が大正4年に初奉納。これまで97年間にわたり、親子2代で数百体の大作り物を奉納してきた。

 矢倉さんは平成21年に脳梗塞を患い利き手が使えなくなったが、「見て楽しんでくれる人のために」と奮起。翌22年は「ゲゲゲの鬼太郎」、23年は「戎(えびす)さん大黒さん宝船」、昨年は「浦島太郎」をテーマにした大作り物を左手一本で作り上げた。しかし昨年12月から急激に視力が低下し、ことしは制作を断念、引退を決めた。矢倉さんは慶之助さんの後、60年以上携わり、「10日間、徹夜で作ったこともありました。一番大きな『鉄人28号』は家を飛び出し、道路で作業しましたね」と振り返る。塩﨑宮司(45)は「非常に寂しいことです。夏祭りの伝統行事を長年支えてくれた」と矢倉さん親子に感謝。「一度でも見たことがある方は、写真を通して懐かしんでください」と夏祭りへの来場を呼び掛けている。

 締めくくりとなる写真展は、夏祭りを盛り上げてきた歴代の作品の写真約100枚が境内に展示される〝大作り物の集大成〟。矢倉さんは「これまでたくさんの方に大作り物を見ていただきました。見たことのある大作り物を探して、楽しんでほしいですね」と話している。

 写真展は10日正午から。11日午後9時ごろまで展示される。また同市内で8月1~15日に開かれる「かいなん夢風鈴まつり」でも展示を予定している。問い合わせは同神社(℡073・482・1466)。

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