放送文化基金賞に 岩田さん企画ラジオ番組

優れた放送番組に贈られる第42回放送文化基金賞(公益財団法人放送文化基金主催)のラジオ部門で、和歌山市に住むフリーラジオディレクター・岩田隆清さんが企画・構成した「さくらFMスペシャル~福山雅治『被爆クスノキ』へのメッセージ」が奨励賞に選ばれた。あまり知られていない、原爆投下につながる恐れのあった、神戸に投下された模擬原爆の真相を、貴重な音や証言で伝えた番組。岩田さんは「取材活動の蓄積から生まれた番組で、評価を頂けてうれしい」と受賞を喜んだ。

岩田さんは神戸市出身。和歌山放送に入社し、記者からディレクターに転身。現在はフリーディレクターとして、全国各地のラジオ局で番組制作に携わっている。

受賞番組は戦後70年に合わせた企画。兵庫県の西宮コミュニティ放送で、昨年7月18日に放送された。43分あり、和歌山市で学習塾の代表を務める中谷哲久さん、劇団員としても活躍する同市の城向博子さんが出演。福山雅治作詞・作曲の「クスノキ」を聴き、「終戦間際、神戸に4発の原爆が落とされたといううわさが広がったと祖母から聞いたのを思い出した」という女子高生から届いた1通の手紙を基に、番組は展開される。

使われている音源は、岩田さんと中谷さんが20年以上にわたって集めたもので、番組完成までに2年を費やしたという。

原爆投下の事前訓練用に模擬原爆が造られ、国内では最も多い4発が神戸に投下されたことや、7月24日に神戸に模擬原爆を投下したB29の乗組員が、8月9日の長崎の原爆投下にも関わった事実に迫っている。「人間には戦争を防ぐ責任がある」とのメッセージとともに、核廃絶を訴える内容。審査では「戦争とは、より多くの敵を効率良く殺りくするための行為として捉え、あらためて戦争の残虐さを考えさせるものだった」などと高く評価された。

番組では模擬原爆体験者の証言の他に、模擬原爆の破片をたたく音や、海底から引き揚げられた第五福竜丸のエンジンをたたく音など、貴重な音が印象的に響く。岩田さんは「やはり、ラジオの魅力は音。想像力をかき立てるもので、音に光を当て続けたい」と話す。

番組に登場する証言者も多くはすでに亡くなり、貴重な肉声の記録となった。岩田さんはこれまで、シベリア抑留の実態を伝える番組でも受賞歴があり「戦争は日本で起きた一番大きな『事件』。体験者も少なくなる中、何らかの形で後世に残す努力をしなければ」と力を込め、「今後も『知らなかった』『初めて聞いた』と、ラジオの前でくぎ付けになるような番組を丁寧に作っていきたい」と思いを新たにしている。

受賞番組を企画・構成した岩田さん㊨と、出演者の中谷さん㊥、城向さん

受賞番組を企画・構成した岩田さん㊨と、出演者の中谷さん㊥、城向さん