正確な情報を格差なく 新型肺炎で専門家が提言

和歌山県内の新型コロナウイルス感染者は22日正午現在、12人で変わっていないが、感染経路が不明な患者は全国で増加し、「発生早期」から「感染期」へ移行しつつあるとの見方が出ている。治療薬がまだなく、感染拡大を防ぐためには、正確な情報を集約して発信することや、人々の移動の拠点となる駅などの重点的な対策が重要だと、医学博士で東濃地震科学研究所主任研究員の古本尚樹さんは指摘している。

古本さんは、災害の行政対応、被災者の健康などを専門に研究し、行政の危機管理に詳しい。

県は、最初の感染者が確認された13日以来、仁坂吉伸知事が連日、記者会見で最新の情報を発表している。古本さんは、危機管理の場面で真っ先に自治体のトップが出てくる例は少ないとし、事態を深刻に受け止めている県の姿勢が伝わると評価する。

一方、2人目の感染者が出たことを発表した14日の会見の際、済生会有田病院での院内感染との見方を否定した仁坂知事が、翌15日には一転、院内感染の可能性を認めたことには苦言を呈する。

「一日で説明がひっくり返ると、信ぴょう性を疑われる。行政の情報は正確でなければ住民が不安になる。研究者や専門家の助言を受けて、分かっていないことは『分からない』とはっきり言うべき。勇気が要るが、行政の広報では大事なことだ」と話す。

高齢者などへの対策を重点的にし、情報格差を小さくすることも重要。行政の情報だけでなく、民間の企業や医療機関、福祉施設などが出す関連情報を集約し、インターネット上の一カ所で見られるようにするなど、自分で情報を集められる人以外にも行きわたるようにする配慮があると良い。

「いかに情報戦を制するかが行政の課題。より罹患(りかん)しやすい人への対策は、健常者への感染防止につながる」。地震や台風などの自然災害時、テレビ画面の一部に常時、最新の情報が流れる手法などを生かせないかと、古本さんは提案する。

新型コロナウイルスがどういうものなのかは、まだ解明されていない。発症して一度回復した人が再び感染する例も報告されているが、なぜ再び感染したかは分かっていない。古本さんは「一度罹患した人は、完治するまで、長い期間をとって経過を観察すべきではないか」とし、新たに分かった情報を、正確に、格差のないように伝えていくことの重要性を強調している。

移動拠点の水際対策重要 官民協力のモデルケースに

新型コロナウイルスは、SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)に比べて感染力が強いとみられ、今後、感染しているがまだ症状はないという人が増えると、人の移動により、さらに感染源が拡大することが予想される。

水際対策では、外部から人が入るポイントとなる駅などで、消毒液を配置して使用を徹底するなどの重点的な取り組みが大切になる。古本さんは「行政と事業者、医療機関などが協力して進めることができれば、重要なモデルケースになる」と話す。

県内の公共交通機関の現状を聞くと、JR西日本の県内有人駅では、1月30日から職員がマスクを着用して勤務している。和歌山支社総務企画課によると、「以前より乗客がやや少ないように思われるが、目立った変化はない」という。

南海電鉄は、関西空港駅で1月20日から駅員がマスクを着用し、30日からは全線の駅員、乗務員に徹底している。同社広報部は「社員には手洗いとうがいを励行するよう呼び掛けている」と話す。

和歌山電鐵は、貴志駅など主要駅の待合室に消毒用アルコールとウエットティッシュ、車両内に空間用除菌製品を設置し、乗務員も小型の除菌製品を携帯している。全スタッフは出勤時に体温を測定し、マスクを着用。ホームページではスタッフのマスク着用への理解、乗客の感染予防への協力を呼び掛けている。

観光客などの利用については、冬は閑散期であることに加え、春節の時期から中国からの観光客が減少し、国内の利用者も減った。一方で、タイなどからの観光客に変化は見られないという。

和歌山バスは、JR和歌山駅と南海和歌山市駅のターミナルにマスクの着用などを呼び掛ける文書を掲示し、車内の手すりやつり革などの消毒を入念に行う対応をしている。

和歌山―徳島間を結ぶ南海フェリーは、県内で感染者が確認された翌14日、車内にBCP(事業継続計画)中央対策本部を設置した。

社員にマスクの着用や手洗いを改めて徹底し、待合室や切符売り場に消毒液を設置した他、乗客に手洗いなどを呼び掛けるチラシを掲示。船内には、直接触らずにアルコールが自動噴射されるタイプの手指消毒機を6機設置している。

同社管理部は社員に対し、家族を含めた海外渡航の制限、渡航歴や体調の把握、疑わしい症状が出た場合の連絡方法などを文書で通知。警戒を強めている。

個人の対策としては、うがいをする、マスクを着ける、できるだけ人ごみは避けるなどの自己防衛に徹することが基本。通勤や通学などで公共交通機関の利用を避けることができない人は多く、古本さんが指摘する官民の協力による重点的な対策が望まれる。

人の移動の拠点となる駅などの重点対策が求められる(22日午前、JR和歌山駅)

人の移動の拠点となる駅などの重点対策が求められる(22日午前、JR和歌山駅)

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