「カイロス」産みの苦しみ 国際競争を勝ち抜く規制緩和を

鶴保 庸介

3月13日11時01分12秒、串本町の民間ロケット発射場「スペースポート紀伊」から、「カイロス」初号機の打ち上げが実施されました。機体はオレンジ色の炎と白い煙とともに上昇しましたが、5秒後に何らかのトラブルが発生し、飛行中断措置が行われ、爆発しました。
「カイロス」には計画航路から逸脱すれば自爆する、という世界初の安全システムが備わっているので、「派手な爆発」は驚くには及ばない、とのことです。現在、打ち上げ事業会社のスペースワン株式会社では、詳細な飛行データの確認、原因究明を行っているとのこと。次回はぜひとも成功してほしいものです。
ところで、そもそも、世界的な宇宙開発競争が始まったのは21世紀に入ってから。アメリカ、ロシア、中国、ヨーロッパなどが独自のロケットを次々打ち上げる中で、日本は高い成功率を誇るH2Aロケットなどを持ちながら、打ち上げ回数では出遅れています。
そんな折、宇宙活動法などが制定され民間ロケット打ち上げにも道筋ができました。その時の担当大臣が私で、「さあこれからは自前で国際競争をやるぞ」とばかりにさまざまな法整備を行なった、ということです。
つまり、各国の独自衛星の打ち上げの要望などを積極的に受注していこう。共産国に大切な自国衛星を託すわけにはいかない自由主義陣営の需要を取り込めるはずだ。高い技術と、情報管理の面で信頼のおける日本にどうぞご用命ください、というのが日本の戦略です。
ですから、これからの日本としては「安く、確実に」衛星を打ち上げねばなりません。そこへ、スペースワンの社長が大臣室にあいさつに来られました。今回の法制定を受けて民間ロケット会社を立ち上げる、というではありませんか。しかも予定地まで決めて。
私からは計画制定をねぎらいながらも「ぜひとも地元和歌山の南端を検討してもらいたい。もうすぐ高速道路もやってくるし」となりふり構わず誘致です。
「安く」打ち上げるためにはできる限り赤道に近いところから発射するのが有利。だから九州がいいのですが、そこだとロケットや衛星の運搬に余計なコストがかかる。本州最南端の串本がいい、と強く勧めたのです。
先方は思わぬ申し出に驚いた様子でしたが、最後は「検討します」とのこと。
決め手は現地の皆さんが協力してくださる、という「確約」でした。
だからこそ、3月9日の当初予定の延期が警戒区域内への船舶の侵入、と聞いたときは本当に「申し訳ない」と思ったものです。現地の多くの見学者の落胆とは違う危機感が私にはありました。だからこそ、その帰路から関係機関あちこちと連絡を取りました。
そこで分かったのは「侵入」した船舶は地元の漁船ではないこと(ひと安心)。警戒区域内にプレジャーボートも含めて大量の「見学船」が来ており、警告が行き届かなかったこと。そしてその警戒の責任はスペースワン一人が負うものであること。
もうお分かりでしょう。これはおかしいと思います。国策として、民間活力を利用する以上、警戒船一つもコストにつながるのですから、これをスペースワンだけにかぶせることは制度が間違っているとしか思えません。
大臣時代に、実際にアメリカのスペースXの工場を視察したことがありましたが、ジーンズを履いた作業員が工事現場そのままにロケットによじ登り、工具を持って作業をしていた姿を見て、ゴミや塵のない「クリーンルーム」で作業する日本との差にがくぜんとしたものです。そして、その「規制緩和」は創業者のイーロン・マスク氏自身が当局と相当なやりとりがあったことを最近の著書で打ち明けています。
警戒区域にかかるコストだけでなく、さまざまな規制緩和に日本は挑戦せねばなりません。イーロン・マスク氏の「スペースX」社は、3度の失敗を経て初打ち上げに成功したように、打ち上げには産みの苦しみがあるのも事実。一回の失敗で日本の信頼が砕かれるものだとは思いませんが、「世界が見ている」ということに留意して、皆さんとともに次回の成功を、いろんな意味で「勝ち取りたい」と思います。

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