価値観の見直しを ブータン国王演説に感銘

鶴保 庸介

 「私は皆様に高い壇上から申し上げる何をも持ち合わせていません。 ただただ、 みなさんの英知と経験に教えを乞いにきた一人の若者として私はここにいます」

 このような言葉で始まるブータン国王の国会演説はとても感銘深いものでした。

 弱冠31歳の国王陛下が国賓として来日され、 11月17日に国会で冒頭の演説をされましたが、 マスコミ等でも 「イケメン国王」 として何度も取り上げられていましたからご存じの方も多いでしょう。

 私はわが議院運営委員会でこの国会演説の下準備をしただけでなく、 前日の議長公邸での歓迎昼食会にも委員長として同席させていただきました。 見た目だけでなく、 失礼ながら本当にナイスガイ。 気持ちのいい人物に久しぶりにお目にかかりました。

 若くして父の座を継ぎ、 国王として慣れない外交日程をこなす中でお疲れもあるでしょうに、 物腰は常に謙虚でかつ慈愛に満ちたものでありました。

 日本に対して尊敬と親近感を持ってくださっているというのは、 人口70万人のブータンが東日本大震災の折に100万ドルの義援金を世界に先駆けて送り届けてくださったことでも分かるわけですが、 国王とその一行とのやり取りでも随所に表れていました。

 国会での演説は私も役目がら 「ひな壇」 に座っていましたから、 参加した議員を見渡すことができたのですが、 涙ぐむ議員もいたほど。

 日本人として、 日本国の政治家として、 忘れてはいけない何かを感じさせられるひと時でした。

 ブータンはご存じの通り、 GDP=国内総生産ならぬ、 GNH=国民総幸福という指標を持って実践している国。 絶滅が危惧される生物のために住民の発意で電柱と電線の設置を取りやめたエピソードはあまりに有名です。 その国が日本を、 英知を持った国として 「尊敬」 している、 といわれると正直気恥ずかしい思いもないではありません。 しかし、 今まさに岐路に立たされているといわれる私たちに期待するこうした国がいることは決して忘れてはならないでしょう。

 稼ぐが勝ち。 有名になれば勝ち。 そんな風潮のある日本ですが、 かつてはブータンのように経済的には決して豊かではなかった日本が本当に目指したものはそんなことではなかったはずです。 私たちは今こそ世界に誇れるゆるぎない価値、 「勤勉で礼儀正しく、 正義を重んじる」 (国王の演説) を見直さねばなりません。

 地域格差や貧富の差が問題となっている昨今、 勤勉で真面目に生きることこそ素晴らしいという価値観が国家にあまねく流布してこそ初めて人は幸せになるのではないか。

 そして何ものにも惑わされず、 このことを愚直に追求していく姿勢こそ、 我が国から学ぼうとする多くの国の手本となり、 ひいては 「国際社会において名誉ある地位を占める」 ことになるのではないか。 世界のどこかの国のように、 他を顧みず福祉を求め続ける、 権利主張ばかりする国民。

 他者の痛みに思いをはせることのできない国民。 すなわち 「愚者の楽園」 をつくってはなりません。

震災後の混乱が驚くほど少なかったことは諸外国が知っています。 そんな国柄である我々こそがその名誉ある責任を負うのです。 今ならまだ間に合う。 そう確信しつつ変えるべきものを一つ一つ変えていきたいと思います。

 新婚ほやほやで 「まさに国民の総幸福を提唱しているブータンで最も幸せな」 (参議院議長の歓迎の言葉) 国王の再来日、 そして再びの演説の機会を心から楽しみにしたいと思います。

関連記事

同じカテゴリのニュース一覧

がんばってます

月別アーカイブ